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町田樹さんインタビュー

フィギュア選手のリアルな実態を本に 「マスメディアはタレント像消費」 町田樹さんインタビュー(上)

作品集「そこに音楽がある限り」(新書館)

 フィギュアスケート男子シングルで、ソチ冬季五輪5位、2014年世界選手権銀メダリストの町田樹(たつき)さん(29)。同年末に競技から退いた後も、プロスケーターとして、バレエ作品などから着想を得た芸術的なプログラムで人気を博した。今回、プロからの引退を記念し、集大成として「決定版作品集 そこに音楽がある限り―フィギュアスケーター・町田樹の軌跡―」(新書館、1万2000円+税、公式サイト)を刊行。作品集や引退後の活動について話を聞いた。フィギュアスケートはテレビや雑誌、アイスショーなどで人気のコンテンツだが、町田さんは、スケーターがタレントのように扱われ、消費されるさまに異を唱える。「本来はアスリートであり、アーティスト。裏側には、マスメディアに報道されない軌跡がある。リアルな実像を知ってほしくて、スケーター町田樹の軌跡を本書に収めた」と話す。【聞き手・高橋咲子】

 ――今の肩書を教えてください。

 ◆慶応義塾大学と法政大学の非常勤講師です。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の大学院生として研究していて、今年度中に博士論文を提出予定です。

 ――「Atelier t.e.r.m」(アトリエ・ターム)の名前は、プログラム制作に携わる存在として、現役最後のシーズンから明らかになっていましたが、こんなに深く関わっているとは驚きでした。

 ◆アトリエ・タームは、これまで私自身が実演してきたプログラムの芸術監修を務めている、日本在住の複数の研究者と、芸術家によって構成された匿名の制作者集団です。選手現役時代の後半に知り合い、主に芸術面でのサポートを続けてきてくれました。もちろん選手時代には、多くのコーチの先生方に出会い、導かれてこそ、最後まで歩むことができたのですが、アトリエのメンバーは専ら、私のプログラムの選曲やコンセプトの考案、衣装案などを手がけてくれました。選手引退後の(大学院生の傍ら続けた)プロスケーターの時代には、私自身がアトリエのメンバーの一人となって、演者であると同時に、照明プランなども担当するようになったのです。新書館から刊行された決定版作品集「そこに音楽がある限り」もまた、このかけがえのないメンバーが全員で作ったものです。

 「フィギュアスケートは総合芸術である」というポリシーはアトリエ・ターム全員のポリシーです。プロ活動以降は、アトリエで制作した「作品」を、アイスショーの現場に提示した上で、さらに現場の音楽、照明、演出、放送等のプロの方たちと協働して、一つのプログラムとしての完成をめざしてきました。この度の書物は、こうした私たちの活動と作品の全てをアーカイブ化したものなのです。

 ――フィギュアスケートが総合芸術であるということは認識しつつも、これまで私は音楽や衣装、照明といった要素のみに注目していました。この本を読んで改めて、生身の人間が関わって成り立っていることを実感しました。

 ◆この本は、アトリエ・タームの活動だけを記録したものではありません。パート3ではさらに、私たちの作品や舞台を支えてきてくださった現場のプロフェッショナルの方々の言葉が、掲載されています。音楽、ダンス指導、照明、放送関係だけでなく、興行主、トレーナー、靴調整に至る方まで、お話をうかがっています。そうした方々の誰一人が欠けても作品は成立しなかったでしょう。ぜひ読者の方には「フィギュアスケートは総合芸術である」ことだけでなく、「フィギュアスケートは舞台芸術(パフォーミングアーツ)の一つになり得る」ということを知っていただきたいと、切に思っています。

 ――この作品集はとても異例なものだと思いますが、制作の経緯をお聞かせください。

 ◆その質問を待っていました(笑い)。この著作に込めた思いは、主に二つあります。一つが、「フィギュアスケーターのリアルな実態をドキュメンタリーとしてアーカイブする」ということです。現在のトップレベルの競技をご覧いただければお分かりいただけるように、フィギュアスケートは、ほぼ未成年が滑っている若年スポーツです。完全にプロ化している競技でもありませんから、基本的にはアマチュアリズムの下に取り組まれているスポーツになりますが、女性であれば16~18歳くらいに、男性でしたら20〜22歳くらいに競技者としてのピークが来てしまう過酷な競技です。現在マスメディアによって、選手があたかもタレントのように取り扱われ、そのタレント像がどんどんマスメディアによって消費されてしまう傾向にあります。一般の方々は、スケーターに華やかなイメージを持たれているでしょうが、実際はそうではありません。1人のスケーターが一つのプログラムを創作したり、競技会に臨んだりする裏側には、マスメディアに報道されないプロセスやドラマ、あるいは学びなど、いろいろな軌跡があります。それをリアルな実像を描くドキュメンタリーとしてアーカイブしたいというのが、この本に込めた一つの思いなのです。

 この本のパート1は、私の競技者時代とプロ時代の軌跡を、アトリエのメンバーが客観的な立場から論ずる内容となっています。このパート1はあくまで町田樹という一人のスケーターのドキュメンタリーではあるのですが、その中には多くのスケーターにも当てはまる普遍的な部分もあると考えています。だからこそ、その記録を通じて、ぜひ読者の方には、スケーターとはどのような存在であるのかを、広く知っていただきたいと強く思います。

 もう一つは、フィギュアスケートという身体運動文化をアーカイブする方法を学術的に検討し、この本の中で実践することです。本のパート2では、私たちが創作してきた作品が、クレジット情報やライナーノーツ(解説)、そして質の高い写真とともにアーカイブされています。またパート4では、私が開発したフィギュアスケート版の舞踊譜である「フィギュア・ノーテーション」を駆使して、私が2018年に実演した「ボレロ:起源と魔術」という作品をアーカイブとして掲載しました。また、フィギュアスケートのアーカイブ機関としては世界随一である「世界フィギュアスケート博物館・殿堂」を対象とした学術調査(17年10月、アメリカで実施)の成果を踏まえて、アーカイブの可能性を論じています。このように本書は、フィギュアスケートのアーカイブの在り方を探究する試みでもあるわけです。

 ――アトリエ・タームとの関わり方はとても珍しい形だと思いました。芸術面に関して、このような形で外部の人と共同で、恒常的にプログラムを作っていくというのは、あまり聞いたことがなかったです。これからのスケーターにとっても、新しい扉を開いたのではないでしょうか。町田さんにとってアトリエ・タームは、チームとしてどういう存在だったのでしょうか。

 ◆なぜチームなのかというと、先ほどもお話ししましたように、フィギュアスケートは総合芸術であるという信条をアトリエ・ターム全員が共有して、そういうフィギュアスケートを体現したいと熱く思っているからです。先ほども申し上げた通り、フィギュアスケートは個人スポーツだけど、個人1人の力だけでは絶対にプログラムを生み出すことはできません。そういう意味で多くの人の情熱や愛、あるいは技術というものが一つの珠玉のプログラムを作り…

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残り2973文字(全文5973文字)

高橋咲子

2001年入社。初任地は鹿児島支局。福岡報道部、広島支局を経て、現在は東京本社学芸部。

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