「他者の著作物、尊重を」「舞踊は一生続けたい」 町田樹さんインタビュー(下)
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フィギュアスケートで選手としても、プロスケーターとしても活躍した町田樹(たつき)さん(29)が、25年間のスケーター人生の集大成として、「決定版作品集 そこに音楽がある限り―フィギュアスケーター・町田樹の軌跡―」(Atelier t.e.r.m編著、新書館、1万2000円+税。公式サイト)を刊行した。現在は慶応大、法政大で非常勤講師を務める傍ら、早稲田大大学院で研究者(スポーツマネジメント・身体芸術論)生活を送り、スポーツと著作権法の関係を研究テーマの一つとしている。フィギュアスケートのプログラムは、音楽など他者の著作物の上に成り立っているが、町田さんは「他者の著作物を利用するからには、創作者の作意と著作権を尊重しなければならない」と注意をうながす。【聞き手・高橋咲子】
「白夜行」主人公に強く共感
――町田さん個人の心情として、プログラム作りにコミットしたいと思うようになった経緯を教えてください。
◆小学生の頃から、やはりフィギュアスケートは表現手段だと思っていた、ということだと思います。もちろんスポーツであるから、競技会の勝ち負けで一喜一憂しましたが、昔からなぜフィギュアスケートを続けてきたかというと、表現できるということの喜びを感じていたからです。元々私は人見知りで内気な性格で、人前で自分の考えや物事を伝えるのがいまいち苦手だったのですが、なぜか氷の上では何でも自然と表現できたのです。そのような経緯もあり、幼い頃からフィギュアスケートを表現手段だと捉えてきたからこそ、プログラムの創作によりこだわるようになったのではないかと思います。
――それが積み重なっていって、プログラム作りに関わろうと意識してやり始めたのはいつですか。
◆私が2013年に演じたショーナンバーの「白夜行」が、自分で振り付けをして、自分で実演をするという自作自演に挑戦した初めての作品となります。このプログラムは東野圭吾さんの長編小説「白夜行」にインスピレーションを受けて、小説がTBSのドラマになった際に河野伸さんが作曲したサウンドトラック「白夜を行く」に振り付けをした作品です。この作品を振り付ける以前も、こういう音楽をこんなふうに表現したら面白いのではないか、この曲をこういう動きで表現したらすてきなプログラムが創作できるのではないかと、自分の中に創作のアイデアが沸々と湧きいでることが多々ありました。普通のスケーターは、たとえそのようなインスピレーションが湧き起こったとしても、大抵はそれを振付師に伝えてプログラムを創作します。ただ当時、私は振付師という仲介者がいなくとも自分自身でアウトプットできるのではないか、あるいは仲介者を介さずにアウトプットした方がよりよく表現できるのではないかと思ったのです。そのような思いを抱くようになったきっかけが「白夜行」でした。なぜかというと、小説の主人公である桐原亮司という人間に、私は強烈なシンパシーを感じたのです。この共感の気持ちや亮司の心情を、言葉で他者に伝えることには限界がありますし、仮にたとえうまく言葉で説明できたとしても、それが他者によって自分の納得がいくような動きに変換されるとは限らないと考えていたのです。そのようなことを考えているうちに、自分で振り付けを行い演技する方が手っ取り早いし、最もうまく桐原亮司の心情を表現できるという思いに至りました。
――そのとき、自身としても扉を開いたような感覚はあったのですか。
◆自分の創作アイデアがうまく表現できたときに感じる快感というのは、やはり格別です。その快感を得たいがために表現しているようなところもあります。ただ自作自演は一歩間違えれば、単なる自己満足のための愚かな表現行為になってしまう恐れもあります。それを防ぐためには、当然のことではありますが、他者に対してどのように表現すれば的確に伝わるのかという視点と、自分の表現が定型化や画一化していないかを、厳しくチェックする第三者的な視点を常に維持し続けなければなりません。「自分が気持ちいいから表現しました」では、駄目なのです。ましてやプロの世界はお金をいただいて、文字通りのプロフェッショナルとして作品を創作し演じているわけですから、観客に伝わらないパフォーマンスでは何の価値もないと思っています。そのことを意識して私は努力してきましたし、表現してきたつもりです。振付家としての自分の能力を発見することができたという意味では、新しい扉を開いたという実感がありますが、しかしながら一方で、その扉の先の道というのは、選手時代と同等かそれ以上に過酷であることにも気がつきました。それでもなお、その道が好きだからこそ進んだのですが。
――心血を注いだというだけあって、町田さんのプログラムはとても濃密でした。アイスショーで今年は何をやるのか毎…
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