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相模原事件を考える~公判を前に

何が暴力を引き寄せるのか 東京大准教授・熊谷さんが考え続ける宿題

熊谷晋一郎・東大准教授=東京都目黒区で2019年12月16日午後1時58分、堀井恵里子撮影

 相模原市の障害者施設での殺傷事件は、障害のある人々に大きな衝撃を与えた。事件後に追悼集会を呼びかけた熊谷晋一郎・東京大准教授(42)は自らも脳性まひがあり、社会の中で生きづらさが生じる仕組みを当事者自身の視点で考える「当事者研究」を専門にしている。当時を振り返ってもらいながら、話を聞いた。【くらし医療部・堀井恵里子】

時代を半世紀、巻き戻すような衝撃

 ――事件当時の思いはどのようなものでしたか?

 熊谷さん 私にとって事件は、時代を半世紀巻き戻すような衝撃を与えるものでした。これまで障害のある私たちが、半世紀をかけて目指してきた方向性が、踏みにじられたようでした。その方向性とは、優生思想の否定や、障害はその人の体の中にあるのではなくて、社会との間にあるという「社会モデル」の考え方です。

 でも私自身は、事件が起きた当初は湧き起こる感情を自覚できず、体調不良なのかなと自分の異変を解釈していました。数日たってからふと、子どもの時のリハビリの記憶が思い出されました。支援者が持つ、暴力にも転じ得るような圧倒的なパワーの前で感じた無力感です。体調不良ではなく、事件をきっかけに身体感覚ごと過去に引き戻されたことに気づくと、例えば通勤時、交差点で向こうから歩いてくる人の群れが、急に怖く感じられました。不特定多数の「誰か」から襲われるのではないか。信頼している身近な介助者に暴力を振るわれるのではないか。社会や身近な支援者への信頼感が掘り崩されるようでした。

「友達やめないでね」

 ――そうした中で追悼集会を開いたのですね。

 熊谷さん 事件の数日後に、一緒に当事者研究をしていた依存症の仲間から「友達やめないでね」と連絡がありました。被告に大麻の使用歴があるということが無防備に報道されたこともあって、世の中のまなざしが、犯人と依存症者を同一視するような、これもまた時代を巻き戻すようなものになるのではないか。そうしたまなざしの下で、被害者側と自分を同一視して恐怖する私のような当事者と、加害者と同一視されかねない戸惑いを抱える当事者との間に、分断が生じるのではないか。「友達やめないでね」という言葉の背景には、分断の予感があったのだと思います。

 それで、依存症の仲間と共に、追悼集会をやろうと考えました。被害者側に自分を重ねる私のような当事者も、加害者側と同一視されたり、あるいは、加害者側になり得たかもしれないと戸惑いながら言葉を失っていたりする人も含めて。追悼集会の場でも、合意形成をするのではなくて、「残された私たちの正直な恐怖心、戸惑い、さまざまな感情を並べていくような場にしましょう」と確認しました。

 ――開いた結果はどうでしたか?

 熊谷さん 集会の最後には、崩れ落ちるような地盤を固めようと、みんなで四股を踏んで終えました。確かに地面はまだあることの確認です。その後、追悼の場があちこちに広がったのは心強いことでした。また、私個人にとっては、「暴力」という角度から障害のある人々の暮らしを考える、という宿題を課せられたと感じました。例えば「隔離」という問題。施設に隔離されている重度の知的障害のある方々、精神科病院に隔離されている精神障害のある方々、回復を阻害するにもかかわらず刑務所に隔離されている薬物を個人的に使用した依存症の方々などがいます。依存できる資源を社会が提供せず、隔離された現場は、暴力を引き寄せます。こうした状況をなんとかしたいという人で集まり、シンポジウムを開いたりしています。

選択肢が十分でなければ隔離

 ――隔離と施設の関係をどう考えますか?

 熊谷さん 社会学者のゴフマンは、多数の類似の境遇にある個々人が、一緒に、相当期間にわたって社会から隔離されて、閉鎖的で形式的に管理された日常生活を送る居住と仕事の場所のことを「全制的施設」と呼びました。全制的施設が隔離装置に他ならないことは定義上明らかです。では、全制的施設でなければ隔離ではないかというと、そういうわけでもないと感じています。隔離は空間的な問題だけではなく、依存できる資源や選択肢が十分に保障されているかどうかという観点からも捉える必要があると思います。何か行動したいと思った時に、健常者はいろいろな選択肢があるが、障害があると選択肢が少なくなる。地域にいても選択が管理されたり、選択肢を奪われたりするなら、それは「動く施設」であり、現象としては「隔離」が起きていると考えるべきでしょう。

 ――事件後に感じた周囲の人への怖さは、どのように変わったのでしょうか。

 熊谷さん 事件から受けた衝撃は、時間を止めるようなものでした。しかしその衝撃は、私が見逃してしまっていたこと、なすべきことがたくさんあることを示しもしました。そして、私ができる範囲で、具体的な行動を起こすことになりました。

 ――被告の「コミュ…

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