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五輪イヤーに「おしゃべりアスリート」宣言 国立劇場で20日間の独演会に挑む桂文珍さん

インタビューに答える桂文珍さん=大阪市中央区で2019年11月21日、大西達也撮影

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1988年、関西大学の非常勤講師に就任し、話題を呼んだ。その後、15年間にわたり講師を務めた

 オリンピックイヤーの2020年、「スポーツ選手だけがアスリートではない!」とばかりに立ち上がった上方落語の大看板がいる。桂文珍、71歳。芸歴50年を超えた大ベテランが「おしゃべりのアスリート」を宣言して挑むのは、東京・国立劇場での前人未到の「20日間独演会」(2月28日~3月8日、3月15~24日)。聴き応えのある古典落語から、傑作ぞろいの新作まで、1日2席計40席を一挙披露する。目下、40席の台本を改めてノートに書き起こし中だという文珍に、意気込みを語ってもらった。【山田夢留】

<普段は歌舞伎などを上演している国立劇場大劇場。客席数は約1600で、落語家が独演会で20日間借り切るのは、今回が初めてのことだという>

 国立劇場で20日間ということは、3万2000人にお越しいただかないといけない。花道が付いてるんですけど、外した方が客が入る、いうてね。吉本らしいでしょ(笑い)。でも大事なことでね。たくさん来ていただいて、笑(わろ)ていただかないといけないな、と思てます。

 一挙に40席楽しんでいただくということで、今、ノートに書き起こしながら頭の整理を一生懸命してるとこです。ものすっごい楽しみなんですよ。昔の仲間に会えるような、クラス会に出かけるような感じやね。自分の中にディズニーワールドがあるように「噺家(はなしか)ワールド」があって、頭の中のキャラクターが出てきはる。そのキャラクターに、「あんた、もうちょっと衣装変えよね」とか「もうちょっとセリフ言わしたげるわ」とかね、そういう作業をやってます。ここは要らんなあ、とか、ここんとこ新しいのつけてあげないと、とかいうことやね。

<初日は「らくだ」、その後も「三十石夢之通路(ゆめのかよいじ)」「たちぎれ線香」「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」「百年目」など、演目リストには上方落語を代表する古典の大ネタがずらりと並ぶ>

 どれもこれも思い出深い噺です。年齢でしょうか、噺の奥行きというのを感じるように、だんだんなってきました。生意気なようですけど、表現者としてキャリアを積んできたということかな、と思います。うちのおやじ(師匠の故・五代目桂文枝)はそれを、「芸の目方」と言うてましたね。この芸が面白いのは、今は71の芸で、これが80になったらまた違う噺になるでしょう。年齢に合わせて良くなるのか劣化するかはわからないけど、その年の文珍を楽しんでいただく、というのがとても大事でね。

毎年8月8日になんばグランド花月で開く独演会の制作発表記者会見では、必ず“時事ネタ”を披露する。この年はデビュー以来の不敗記録で話題を呼んでいた将棋の藤井聡太さんをまね、「大志」と書かれた扇子を手に登場。脇には「JO段名人」と書いた=大阪市中央区で2017年、山田夢留撮影

 しかしまあ、けったいな芸でっせ。自分で男演じたり女演じたり。それをまた、もう1人の自分がずっと見てますからね。演じてる自分をむしろ恥ずかしいと思うようなシャイな人やないと、落語なんかでけへんのちゃうかな? ずっと続けられへんから、いろんな人物が出てくるんやと思うわ。役になりきるんやったら、なんか塗って衣装も着けてズラも着けなねえ。けど、こんな効率的で、あらゆるものを表現できて……。日本のすごいカルチャーですよ。

<17日目(3月21日)に演じる「老婆の休日」は“鉄板ネタ”の一つで、元気なおばあちゃんたちがかかりつけの病院で爆笑必至のやり取りを繰り広げる。子どもからお年寄り、そして観光客まで、あらゆる客層が混じり合うホームグラウンド「なんばグランド花月」(NGK、大阪市)の寄席興行で、時間をかけて磨いた一本だという>

 芸人は「発明」をせなあかんのです。今でも若い人で「いいな」と思う人は、皆、発明家。「発見」をしているようでは遅い。僕にとっては「老婆の休日」がそれに当たります。花月の寄席は大変やった。忙しいからっていうんで、やすきよさん(横山やすし・西川きよし)が前に出はったりすると、お客さんはもう笑い疲れてる。けど、そういうところでも何とか自分の世界を築かなあかん。寄席のお客さんに喜んでいただくにはどうしたらいいんやろうと、ずっと考えててね。そんな時、病院行ったら、おばあちゃんがぎょうさん来てる。元気やのに来てる。違和感があったんですよ。笑いが起きる時っていうのは違和感を感じる時なんですね。

 最初は、「振り向けば老い」っていう噺を作ったんです。「おい」って言われて振り向くたびに老いていくっていう、すごいシュールなネタやったんですけど、頭でっかちになってたり、新しすぎたり、そういうのを花月のお客さんが「こっちこっち」ってアジャスト(調整)してくれたんですね。形になるのに3、4年かかったんじゃないかなあ。「老婆の休日」のおかげで落語家として飯が食えるようになったし、今でも非常に力があるネタ。そして、今も変化し続けているネタですわ。

1983年4月、うめだ花月(当時)で行われた一門会。師匠の五代目桂文枝(中央)と兄弟子の六代桂文枝(当時三枝、右)と=吉本興業提供

<1969年、五代目桂文枝に入門した文珍は、人気番組「ヤングおー!おー!」に出演し、あっという間に売れっ子になった。その後もバラエティー番組から報道番組まで、テレビ・ラジオのレギュラーは十数本。しかし、40代を迎えた90年代、「落語家」桂文珍に転機が訪れる>

 90年に「サンデー毎日」で藤山寛美先生と対談させてもろた時に、「文珍君、何本レギュラーやってるんや」て聞かれたんで、胸張って「16本です」て答えたんです。えらいなあ、て褒めてくれはるんかと思たら、「そんなもの、すぐ皆なくなるよ」て。ものすごいショックでしたわ。「今のうちにしっかり芸を身につけなさい」て言われて。その時、40ちょい過ぎ。寛美先生の言葉がきっかけで、軸足、重心位置をちょっとずつ変えていこう、となりました。

 そういう時に、阪神大震災があったんです。家は半壊でしたが、ありがたいことに家族は無事でした。壊れないもの、奪われないものを大事にせないかんな、と思いましたね。わたしは落語家ですから、芸。あとは健康とか絆とか信頼とか。とにかく目に見えないものが大事なんやと思い知らされました。震災の3日後からNGKの出番やったから、50㏄のバイクで通ったんですよ。寒空の下、鼻水つらら状態でね。でも、劇場へ出てお客さんが笑ってくれたら、こちらが癒やされた。笑っていただいた私の方が力をいただく、というね。「これはやめられない。ありがたい仕事に就いてるんやなあ」と深く思うようになりましたね。

<毎年8月8日に大阪で開いている独演会は37回を数える。19年に演じた「不思議の五圓(ごえん)」は、古典落語「持参金」に新たなサゲ(オチ)を加えたもの。「男が持参金目当てで嫁をもらう」という現代では受け入れられにくい噺の設定に、女性にも主体性を持たせる工夫を加えた。一方、自作の最新作「スマホでイタコ」は「あの世と通信できるアプリがあったら……」というストーリー。時事ネタを盛り込みながら、ネット用語を使ったギャグをたたみかけ、上方落語四天王も登場するという「文珍ワールド」全開の爆笑噺だ>

2019年8月8日になんばグランド花月で開いた「吉例 第三十七回88桂文珍独演会」=吉本興業提供

 「持参金」は若い頃やってたんですけど、このままではもたないなあ、次世代にバトンを渡せないな、と思ててね。今までの寄席は男の人中心でしょ。日本の文化は「ガラスの天井」があるとも批判されてる。そこんとこを突き抜けられるような、どうやったら女性にも後味のいい落語ができるんだろうって2年ぐらいかけて考えたんです。落語は古典芸能と言いながら、時代と寄り添って今日まで来たわけですから、そういう工夫がいるやろうと思てね。面白いと言ってくださる方もいるし、それはいじりすぎちゃうか、という人もいるかもしれない。でもそれは後に歴史が証明するんではないかというふうに思ってます。

 「スマホでイタコ」はね、スマホが6Gになってあの世と通信できるっていうのはどうかなあ、と思てね。我々、「こんな笑いはどうだろう」と思いついて探していくでしょ。そうすると大体、先に誰かがやってるんですよ。「チャップリンさんがやってるがな! あ痛ー……」とかね。でも、まだ誰もやってないものを見つけないと我々は食べていけませんから。「ちくしょー! 文珍にやられてるわ」っていう思いを、後で誰かに感じさせてやろう、っていう根性悪さみたいなとこはありますよね(笑い)。ただ、例えばNGKとかの寄席に今、アジャストしてるのは20年以上前に作ったネタです。「スマホでイタコ」なんかが評価されるのは、もうちょっと後の時代になると思う。でも、落語会ならできるし、やっとかないかん。そこが面白いね。

 芸歴半世紀やなんて、えらいこっちゃわ、ほんまに(笑い)。でも気持ちは「大番頭」ですね。まだ「主(あるじ)」にはなれないと思てるんです。まだまだやらないかんこと、ようけありますから。

桂文珍さん=大阪市中央区で2019年11月21日、大西達也撮影

「芸歴50周年記念 桂文珍 国立劇場20日間独演会」

 2月28日~3月8日、3月15~24日の各午後2時開演。各5500円。文珍の演目とゲストは、2月28日「らくだ」「新版・豊竹屋」・笑福亭鶴瓶▽29日「けんげしゃ茶屋」「新版・七度狐」・桂南光▽3月1日「はてなの茶碗」「くっしゃみ講釈」・林家木久扇▽2日「寝床」「老楽風呂」・柳家喬太郎▽3日「帯久」「お血脈」・桂文枝▽4日「不動坊」「憧れの養老院」・林家正蔵▽5日「三十石夢之通路」「天狗裁き」・柳家花緑▽6日「庖丁間男」「商社殺油地獄」・立川志の輔▽7日「猫の忠信」「セレモニーホール旅立ち」・春風亭小朝▽8日「たちぎれ線香」「ヘイ・マスター」・三遊亭小遊三▽15日「地獄八景亡者戯」「風呂敷間男」・柳亭市馬▽16日「算段の平兵衛」「稽古屋」・立川談春▽17日「三枚起請」「心中恋電脳」・柳家三三▽18日「胴乱の幸助」「星野屋」・春風亭昇太▽19日「愛宕山」「不思議の五圓」・林家たい平▽20日「饅頭こわい」「そこつ長屋」・桃月庵白酒▽21日「天神山」「老婆の休日」・柳家権太楼▽22日「船弁慶」「新版・世帯念仏」・神田松之丞▽23日「へっつい幽霊」「花見酒」・春風亭一之輔▽24日「百年目」「スマホでイタコ」・三遊亭円楽。チケットよしもと(0570・550・100)。

山田夢留

2001年入社。津支局、政治部などを経て2015年から学芸部。取材分野はお笑いや上方の演芸で、「南光の『偏愛』コレクション」「銀シャリのしゃシャリでてすみません」「桂二葉のけったいなやっちゃ!」などの連載を担当。大阪府八尾市出身。

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