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来年80歳の〝炎のマエストロ〟小林研一郎 ベートーヴェンとともに歩んだ70年 「全交響曲連続演奏会」で生誕250年幕開け

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20年4月に80歳を迎える〝炎のマエストロ〟小林研一郎(C)山本倫子
20年4月に80歳を迎える〝炎のマエストロ〟小林研一郎(C)山本倫子

 「ベートーヴェンは、誰も続く人がいないほど私たちに光をくださる方。毎年、年末はベートーヴェンと向き合わせてもらえる貴重な時間。ただひたすら寝て体を丈夫に保って、頭をしっかり働かせられるようにするだけ。そうすると、いつのまにかベートーヴェンが遠くで動き出して、思いがけず新しい光を投げかけてくれる」

 来年4月に80歳を迎える〝炎のマエストロ〟小林研一郎。今年も「第九」の歓喜の調べでホールを満たす日々を過ごし、大みそかは12回目となる「ベートーヴェンは凄い!全交響曲連続演奏会」に臨む。半日間のマラソンコンサートで、来年の生誕250年の扉を開くファンファーレを高らかに奏でる。

 9歳の時、ラジオで第九を聴いて涙を流した。それ以来、ベートーヴェンと対話を重ね、楽譜のあわいにひそむ「行間の宇宙」に迫ろうともがき続けてきた。「今でも新しい発見があって感動する。『こんなことが書いてあったのか、じゃあこうやってみよう』って、実際やってみると全然だめなことも」「楽譜はこうだけど、ベートーヴェンの頭の中で思っている音は、きっと違う。『もっと豊かなものを伝えたい』と思っていたに違いないところもある」。ある第九の演奏会では、本番直前のリハーサルで第3楽章のある箇所にさしかかったとき、突然ファーストヴァイオリンを二手に分けて、一方は楽譜指示通りのレガート(音と音をつなげる)で、もう一方にはデタシェ(音と音をつなげない)で弾くように指示。第4楽章では、合唱団に向かって「ベートーヴェンに電話して了解とったから」とジョークを交えながら、ピアノ(弱く)で歌う部分をフォルテ(強く)で歌うよう指示した。「第九は生き物。オーケストラや合唱や聴衆が変わるだけでも、また違う世界が現れる。その時々で変化させてくれるのがベートーヴェンの偉大さ」

 快速テンポ全盛の昨今だが、小林のタクトはゆったりと大きな流れを紡ぎ出す。指揮台に立つと、両足を踏みしめて腰を落とし、時に低くうなり声を上げ、会心の演奏には左手を胸に当てて笑顔を送り、客席の奥を指さしてオーケストラの音をかなたへと導く。暗譜もコバケンの信条だ。著書「小林研一郎とオーケストラへ行こう」(旬報社、2006年)では「目だけで楽員と音楽を確認し合っているときの、特殊な空気、空間、あうんの呼吸。そういったもので素晴らしい音楽が花開くようにしなければなりません」とつづる。ステージに立つ直前、1時間ぐっすり眠るのがルーティンだそうだが、「『春の祭典』とか、人々を寄せ付けない曲の前は寝られません。寝ちゃったら暗譜した曲が出てこなくなるかもしれないという恐怖がある」と笑う。

 来年4月7~12日には東京・サントリーホールで「小林研一郎80歳記念&チャイコフスキー生誕180周年記念チャイコフスキー交響曲全曲チクルス」が行われる。チクルスの途中、9日に80歳を迎えるが「単なる通過点。毎日、階段を一段一段上ると見える景色が変わっていく。90歳になって『80の時ってあんなことしかできなかったのか』とか『このフレーズは今の俺にはできないぐらい豊かだなあ、若いっていいなあ』とか思うのかもしれません」。チャイコフスキーはベートーヴェンと並んで小林の心をつかんで放さない独特の世界。「コバケンが交響曲1番からマンフレッドまでこんなに短期間に演奏するなんて、絶対に聞けないチャンス。ぜひいらしてください」。2020年もコバケンから目が離せない。

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