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世界のヤバい飯を取材 危険すぎる番組「ハイパーハードボイルドグルメリポート」はどうして生まれたのか?

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ケニアのゴミ山のど真ん中で暮らす若者 (C)テレビ東京
ケニアのゴミ山のど真ん中で暮らす若者 (C)テレビ東京

 あのうわさの「ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート」(旧「ハイパーハードボイルドグルメリポート」)が三が日の深夜にテレビ東京で再放送される。2017年に深夜で突然放送されると、たまたま見た人の興奮がネットを駆け巡り、不定期放送のため半ば幻の伝説的な番組に。19年にはついに看板番組が並ぶプライム帯(午後7~11時)で2度放送された。「飯から世界が見えてくる」がコンセプトの自称「グルメ番組」だが、カメラが映し出すのは、アフリカ・リベリア共和国の墓地に住む元人食い少女兵や台湾マフィア、アメリカのギャングといったヤバい人たちの食事風景ばかり。この「危険すぎる」企画を入社7年目の時に実現させた上出遼平ディレクター(30)に、「グルメ番組」に込めた真の思いを聞いた。【佐々本浩材】

 番組は「ハイパーハードボイルドグルメリポート」として、17年10月にスタート。18年7月まで深夜に5回放送された。

(1)アフリカ・リベリア共和国 元人食い少女兵の晩ご飯/台湾 マフィア組長の贅沢(ぜいたく)中華

(2)アメリカ 極悪ギャング飯 全米一危険な街で双方のアジトに 潜入!

(3)シベリア 麻薬密売アパートと山奥のカルト教団村に潜入!

(4)セルビア 足止め難民の飯 中東から西ヨーロッパを目指す命をかけた 不法国境越え

(5)ネパール 火葬一家の飯/アメリカ 出所飯

 19年はゴールデン帯に進出。タイトルに「ウルトラ」を付けた「ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート」として、7月と10月に2度放送された。

(1)ケニア ゴミ山暮らしの若者飯/ボリビア 人食い山の炭鉱飯/ブルガリア 密漁キャビア飯

(2)ギリシャ 難民監獄島飯/香港 激動のデモ飯

 そのうち、今回再放送されるのは

▽20年1月1日(深夜3時50分)=「ハイパー……」の(1)と(2)

▽1月2日(深夜1時25分)=「ウルトラ……」の(1)

▽1月3日(深夜3時)=「ハイパー……」の(3)と(4)

――の予定だ。

 タイトルを聞いただけでなんとなく「危険すぎる」という感覚は伝わるかと思う。例えば、初回で登場した「アフリカ・リベリア共和国 元人食い少女兵の晩ご飯」は上出さん自身が取材した。元少年兵たちが集団で暮らしているという廃虚を訪れ、入り口で「食事風景を取材させてほしい」と声をかけると、撮影カメラを強奪されたり、奥の方に引っ張り込まれたりと、視聴者は「大丈夫なのか?」とヒヤヒヤする場面の連続。それでも、両親を殺され11歳で銃を手に取ったという元少女兵の密着に成功。彼女が売春で手にしたわずかな金で食事をする風景を映し出す。元少女兵の取材は恐らく数時間。だが、食べる現場をともにすることで不思議な緊密感が生まれていく。彼女が会ったばかりの外国人に時折笑顔を見せ、将来の夢を語り出すのが不思議だ。

 他の回もコンセプトは同じ。食事風景を取材していると、大抵「一口食べてみる?」と味見を勧められ、一気に取材対象との距離は縮まっていく。そして、なぜか相手はふと素顔を見せ、本音を語り出す。取材中は終日、食事をしないため「空腹がばれるんでしょう」と上出さんは笑う。「これはグルメ番組です」とオープニングで念押ししている、この番組はドキュメンタリー番組以上に世界のある一面の現実を伝えてくれる。

 「人と人が触れ合う瞬間で、日本人が一番なじみがあるのは『飯食いましょ うよ』。普通、ドキュメンタリーと言うと、1年密着しましたとかいうけれど、我々は体力的にも、時間的にもそんな余裕はないですから。じゃ、どういう 瞬間を俺たちが設けたら、その取材対象者と一気に深められるだろうかって考えた時に、日本人なんで、やっぱり飯じゃないかと。同じ釜の飯を食ったら、話せないことも話せるようになったりするじゃないかというもくろみもあって、厳しい状況で暮らしている人たちと僕らを飯でつないでみようというアイデアが僕の中で生まれました」

 上出さんは早稲田大学を卒業後、11年にテレビ東京に入社した。大学時代に、中国にあるハンセン病患者の隔離村を訪れたことがテレビ局を目指す一因になった。

 「中国ではいまだにハンセン病患者の隔離が続いていました。患者が街に降りていくと、『何、あの人は? 気持ち悪い』と恐れられる。日本人は感染力が弱くて発症リスクも低いと知っているから、怖くない。伝えて知ってもらうことは人を幸せにできるんだなと感じたんですよね。テレビのバラエティー番組はすごく面白いのに、ドキュメンタリーはつまらない。伝えたいと言っているのに、全然伝えようとしていないんじゃないか。そもそも興味がある人に向けて作っていませんか。就職活動の時、面白いパッケージの中で伝えるべきことを伝えていけるようなことをやりたいと話していました」

 そんな上出さんは制作部に配属され、バラエティー番組「ありえへん∞世界」などのアシスタントディレクター(AD)に。そのうち、海外番組が増え、「世界ナゼそこに?日本人〜知られざる波瀾万丈伝〜」の取材で海外を駆け回ることが増えた。その経験が「グルメリポート」の誕生に結びついた。

 「番組は海外で暮らす日本人を取り上げる番組なので、それ以外の話題は面白くても排除されます。お金も飯も足りておらず、腹が減ったとばかり言っている人たちと触れ合っているうち、貧しい暮らしをしている人たちがすごく楽しそうだったり、家族でキャーキャー笑っていたりするのを見ていて、こういうのを視聴者に見せたいなと思った。特に飯の話題は面白かった。変な国の変な場所で飯を食う。番組を作るのなら、人間の欲求にちゃんと訴求していかないと絶対に見てもらえないというのは当然のこと。クイズ番組だったら、知的好奇心を刺激してとか。だから、こういう取っ付きづらいテーマをやる以上、なるべく直接、その欲求に応えてあげないと誰も見てもらえないだろうと思い、テレビの伝統的な技法の一つ、飯番組を使いました」

 それにしても、こんな危険な企画を通した力業がすごい。だが、編成局に提出した企画書は一度も…

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