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社説

拓論’20 五輪・パラと日本社会 共生と公正求める祭典に

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 東京五輪・パラリンピックの年を迎えた。56年ぶりの五輪開幕まで200日余りと迫った年の初めに、改めて日本開催の意義を考えたい。

 1964年の前回は、日本の戦後復興と経済成長を世界に示す大会となった。しかし、今は少子高齢化、人口減少が進む低成長時代だ。

 国内では右肩上がりだった時代の再現を夢見るような計画が立てられている。2025年に大阪・関西万博があり、30年冬季五輪・パラリンピックには札幌市が立候補する。

 複数回にわたって夏季大会の招致に成功した世界的な大都市にも共通の傾向が見られる。ロンドンやパリ、ロサンゼルスも都市の再活性化と経済成長が重要なテーマだろう。

 しかし、五輪やパラリンピックを開く目的は、老朽化した競技施設を建て替え、道路を整備し、ホテルや観光客を増やすことではない。

多様な文化受け入れて

 国際的に活躍する日本の選手を想像してほしい。テニスの大坂なおみ、バスケットボールの八村塁、陸上のサニブラウン・ハキームやケンブリッジ飛鳥、卓球の張本智和の各選手らは、外国出身の親を持つ。ラグビー日本代表も、外国人を含むメンバーの多様性が話題になった。

 グローバル化の現象は世界のスポーツ界でさらに顕著だ。98年サッカー・ワールドカップは開催国フランスが優勝した。その中心メンバーは、アフリカやカリブ海など外国や旧植民地にルーツを持つ選手だった。

 英国ではロンドン五輪とリオデジャネイロ五輪の陸上長距離で、計4個の金メダルを獲得したモハメド・ファラー選手が英雄的存在だ。ソマリア生まれだが、内戦を逃れて8歳で英国に渡り、才能を開花させた。

 日本も人種、民族、宗教、言語の異なる人たちと暮らす多様な社会になりつつある。

 共生の大切さは、障害者との関わりにも通じる。パラリンピックは、ロンドン郊外のストーク・マンデビル病院で、48年に始まったアーチェリー競技会が原点だ。最初は第二次世界大戦で脊髄(せきずい)を損傷した兵士のリハビリを兼ねていた。

 「失ったものを数えるな。残されたものを最大限に生かせ」は大会の創設者、ルートビヒ・グトマン医師の言葉だ。その理念が共感を広げ、大会は国際的な発展を遂げた。

 日本の障害者スポーツはかつて厚生労働省の管轄だった。14年度から文部科学省に移管され、今はスポーツ庁の傘下にある。トップ選手は五輪代表と同様、国立のトレーニング施設を使えるようになった。リハビリではなく、五輪と同じ競技スポーツとして位置づけられた証しだ。

 障害を持つ人たちが、可能性と限界を求めて挑戦する。パラリンピックはそんな姿に身近に接し、共生社会の意味を肌で感じる機会になる。

メダル至上主義の危険

 一方、グローバル化への反動で、多様性に背を向ける国家主義的な潮流が世界各地で広がっている。愛国心がメダル競争と結びつけば、重圧で選手を苦しめることになる。

 64年東京五輪のマラソン銅メダリスト、円谷幸吉選手が次のメキシコ五輪を前に走れない苦悩から自殺した。今も語り継がれる悲劇だ。

 日本は今回、五輪で金メダル目標を30個と掲げている。56年前は金15個を目指して16個を獲得し、これが今も04年アテネ五輪と並んで最多だ。4年前のリオ五輪は金12個だけに、30個はハードルが高い。

 パラリンピックでも日本は金メダル獲得順位で世界7位以内を目指している。だが、リオ大会では金メダルゼロと厳しい現実に直面した。

 高い目標設定の背景には、国家戦略として選手強化に巨額の予算がつぎ込まれている事情がある。20年度予算案ではスポーツ関係に過去最大の351億円、このうち競技力向上に101億円が計上されている。

 だが、選手を精神的に追い込むメダル至上主義は、時に不正を誘発する。国威発揚の考えが強いロシアがドーピングを根絶できず、大会から除外されるのは典型だろう。

 競技の現場に求められるのは、結果よりも、公正さだ。前回東京五輪で日本選手団の団長を務めた大島鎌吉氏は、五輪を宗教になぞらえて「オリンピック宗の本尊は『フェアプレー』。世界共通の理念である」と書き残している。

 多様性を認め合い、公正さを追求する。将来の日本の姿を占う意味でも、成熟した社会として、自然体で世界の人々と接する祭典にしたい。

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