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社説

拓論’20 ビッグデータ社会 利益を手にするのは誰か

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 私たちの日々の活動はインターネットを通じて記録され、「ビッグデータ」となる。

 ネット検索やSNS(交流サイト)、スマートフォンの位置情報など膨大なデータを人工知能(AI)で解析すれば、企業は個人の将来の行動を先読みできる時代になった。

 「無香料の化粧品」と「大きめのバッグ」などを同時期に買った若い女性は「妊婦の可能性が高い」――。米スーパーは収集したデータからこんな行動パターンを導き出し、ベビー用品の販売を大きく伸ばした。

 データから個人の趣味や嗜好(しこう)を割り出し、個別に商品を売り込むマーケティングは今や常識だ。

 ネットサービスの基盤(プラットフォーム)を提供するグーグルなど米4大企業「GAFA」はより多くのデータを集める。これを基に利用者の行動を予測して、広告を配信し、巨額の利益をあげている。

便利さの裏に落とし穴

 スマホの画面を開けば、欲しいものを自動的におすすめしてくれるのは便利だ。だが、その裏に落とし穴が潜む。

 例えば、サイト閲覧履歴などから、中年太りを気にする人を割り出し、その人のSNSに健康不安を喚起する情報を流す。その上で、ダイエット食品の広告を配信して半ば強引に買わせるような手法も横行する。

 企業が利用者の心情まで操作する状況だ。米情報学者は「企業はビッグデータを使えば、進んでカネを落とす客を作り出せる」と警告する。

 米国でSNS最大手フェイスブックへの批判が高まったのも、心情操作への疑念からだ。

 米国人の7割近くがフェイスブックを利用している。米大学の研究によると、どんな話題に「いいね」を押したかを解析すれば、性別や人種は9割以上の確率で、支持政党や信仰する宗教も8割以上の確率で予測できるという。

 2016年の米大統領選では、8700万人分の利用者情報を入手したトランプ陣営が、フェイスブック上に選挙に有利になる情報を流した疑惑が取り沙汰された。

 大統領選が今年行われる米国では、ビッグデータで利用者の政治的関心や志向を把握し、それに合わせた政治広告を出すことを規制すべきだとの議論も出ている。

 もともとネットでは、利用者が関心のある情報しか見ない傾向が強い。同じような考えの人が集うSNSはなおさらだ。狙い撃ちの政治広告で投票行動が操作されかねない。

 中国ではアリババなど巨大IT(情報技術)企業が持つ利用者の学歴や購買履歴、SNSでの発信動向、友人関係などのあらゆるデータを基に、個人が350~950点の範囲で点数付けされる。

 点数が低いと、銀行の融資が受けられなかったり、就職や結婚にも影響したりするというから深刻だ。政府はこのデータを使って国民を監視し、共産党一党独裁体制を維持する道具にしている。

 日本企業はビッグデータを使った業務効率化にも駆り立てられている。就職情報サイト「リクナビ」の運営会社による「内定辞退率」予測を、トヨタ自動車など大企業が買った背景にも効率化の流れがある。

 就活生の同意も得ずに個人情報を勝手に使って本人に不利になりかねない予測をするのは理不尽だ。

効率が最優先の企業

 だが、企業側は内定辞退者が推測できれば、採用コストが省ける。自社の膨大な人事データを採用や人事評価に役立てる動きも活発だ。

 採用面接での受け答えや、入社後の仕事ぶり、離職状況など社員のあらゆる個人データをひもづけて解析する。抽出されたパターンから、新卒採用者や社員の離職の可能性や、活躍期待度を予測する。データの活用はこんなところまで及ぶ。

 ビッグデータ社会になり、企業は大きな利益を手に入れている。一方、データの主権者である個人のメリットは限られ、プライバシー侵害などの弊害が際立つ状況だ。

 個人の生活習慣や病歴データから将来の健康リスクを予測して、予防に役立てる。ビッグデータは本来、こんな使い方が期待されたはずだ。個人の権利がないがしろにされるようでは、本末転倒だ。

 欧州連合(EU)は企業による個人の行動予測を規制するルールを整備した。安倍政権がビッグデータ先進国を目指すなら、個人が守られ、恩恵を感じられる仕組みが必要だ。

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