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中村桂子・評 『宮沢賢治 デクノボーの叡知』=今福龍太・著

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 (新潮選書・1760円)

豊かな「愚」を生きる意識体

 「賢治作品を読むことで、現代を生きる人々が忘れていることをいかに再発見できるか」という言葉で始まる本を読まないわけにはいかない。

 きっかけは、二〇一四年九月二七日の木曽御嶽(おんたけ)山での大規模噴火だとある。現場にいた登山者が「噴石の大きさは軽自動車ぐらい」と喩(たと)えたことに著者はひっかかる。「グスコーブドリの伝記」の「爆発すれば牛や卓子(テーブル)ぐらゐの岩は熱い灰や瓦斯(がす)といつしよに落ちてくる」という一節を思い出したからだ。賢治が牛になぞらえた噴石は人間にとって他者ではなく、一方軽自動車は身体的感覚からはずれている。賢治にとって人間、動物、森、山、水、大地は「共感と共苦の世界をともに生きている」のであり、火山を災害の根源とはしない自然との向き合い方をしている。

 ここで、二〇一一年三月一一日の東日本大震災の時、どうしたらよいかわからないまま、なぜか宮沢賢治を読み始めたことを思い出した。科学技術文明の中で、深く考えることもなく暮らしているところへ自然の大きな力を見せつけられた時、考え始める手がかりとなるのが賢治なのかもしれない。

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