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拓論’20 人口減少と地方 恐れず現実と向き合おう

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 人口減少に拍車がかかっている。全国で昨年に生まれた子どもは予測を下回り、初めて90万人を割った。細る地域やコミュニティーをどう、持続させていくのか。

 宮城県南端にある丸森町。昨年10月の台風19号でのケタ外れの豪雨による河川の氾濫、土砂災害で深刻な被害を受けた。10人の犠牲者を出し、再建の途上にある。

 その丸森の山あいにある「筆甫(ひっぽ)」という集落が注目を集めた。人口約540人、高齢者が半数を超すいわゆる限界集落である。

 災害後、交通網は寸断され孤立状態となった。だが、住民による自治組織である「筆甫地区振興連絡協議会」が機能した。

 集落ごとに住民が全戸訪問を行い、全世帯の健康状態や必要な物資など約20項目にわたる情報を協議会で集約した。足りない物は住民が融通しあい、急場をしのいだ。重機を使って土砂で塞がった道路を開通させる結束もみせた。

失敗した「地方創生」

 人口減少が進む丸森町は住民自治の推進を掲げている。筆甫地区は10年前に役場職員が撤退し、住民による連絡協に代わった。町の窓口業務だけでなくスーパーやガソリンスタンドも運営し、身近な課題は自分たちで解決している。事務局長の吉沢武志さん(43)は「信頼関係が災害時に生かされた」と語る。

 地方の人口減少の深刻さが認識されたのは6年前、増田寛也前岩手県知事らのグループが市町村の「消滅危機」を警告してからだ。

 安倍内閣は地方創生を掲げ、2015年から5カ年計画で自治体の人口増加策を交付金で支援した。「稼げる自治体」が重視され、インバウンド目当ての観光需要の発掘などに力点が置かれた。

 だが、このアプローチは東京集中に歯止めをかけられなかった。

 政府が地方創生で掲げた数値目標の根幹は、東京圏と地方の人口の転出入数を均衡させることだった。だがここ数年、東京圏への人口流入はむしろ加速している。

 仙台市など地方中核都市から若い女性を中心に東京圏に流入する流れが止まらない。東京集中を生み出す構造の分析が不十分だったと言わざるを得ない。

 それ以上に問題なのは、国も地方も人口減少自体は不可避であるという現実から目をそむけ、思考停止に陥りつつあることだ。

 地方創生はあくまで減少のスピードを緩める試みだ。備えが後手に回ってしまっては本末転倒である。

 昨年1年で日本の人口は自然減で51万人減った。鳥取県の人口56万人に迫る規模で消えた勘定になる。政府が出生率1・8を前提に掲げる「人口1億人維持」の将来目標は実際は達成は困難だ。昨年のように出生数が予測を下回り続けると、減少ペースはさらに急になるだろう。

 市町村行政の基本とされる小学校の設置や、水道事業などを多くの自治体が早晩、単独で担いきれなくなるおそれがある。役場の職員も減り、筆甫のように出先が撤退する集落も増えるだろう。

住民本位こそが原点

 手をこまねいている時間はない。市町村は広域に連携して教育、医療など機能を補完し合うべきだ。

 高度成長期に整備されたインフラは老朽化で選別を迫られる。取捨選択と並行して、都市や集落を設計し直す取り組みが欠かせない。

 地域社会を維持するため、いくつかの自治体は挑戦を始めている。

 北海道の北部にある下川町は町の9割を占める森林資源の有効活用に取り組んでいる。伐採した木材を余すことなく使い切るバイオマスなどで町おこしを進め、雇用の創出や子育て支援に力を入れている。近年、転入人口は転出を上回っている。

 生活に困窮することが多いシングルマザー世帯の移住支援を進める自治体も広がっている。引っ越し代だけでなく、雇用先の確保など暮らしやすさをアピールして定住を進める試みだ。兵庫県神河町への移住はすでに11世帯、33人に達した。

 「地域おこしといっても、奇をてらうことはない。生活の維持に何が必要かを中心に考える」と筆甫の吉沢さんは語る。

 人口減少の現実に恐れずに向き合い、地域の暮らしを守り、住民参加で課題に取り組む。住民が結束して危機に向かった筆甫の姿は、自治が持続していくためのヒントとなるのではないか。

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