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社説

拓論’20 国際主義の1世紀 協調の衰退、食い止めたい

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 第一次世界大戦の惨禍を教訓に100年前の1月10日に発足したのが国際連盟である。世界平和と国際協調を理念に掲げた初の国際機関だ。

 帝国主義のもとで軍事力を背景に領土拡張を競った19世紀の外交を根底から覆した。地球規模の平和を追求する20世紀の外交の礎となった。

 孤立主義が残る米国は参加せず、もろい体制だったのは否めない。大恐慌が世界の分断を生み、第二次世界大戦を防ぐこともできなかった。

 それでも国際連合に引き継がれたのは普遍の価値があったからだ。不戦、軍縮、集団安全保障、国際協調、自由経済はその中核をなす。

 最も重要なのは、自国の利益のみを追求するのではなく、世界の利益に貢献する精神だろう。提唱者のウィルソン米大統領はこう説いた。

 「すべての国民と民族への正義と、強弱を問わず自由と安全の平等な条件の下に生きる権利が原則だ」

「米国第一」が壊す秩序

 1世紀を経て国際主義の理念が再び試練を受けている。震源はトランプ米大統領だ。そのトランプ政治を問う米大統領選が11月に行われる。

 「米国第一が原則になる」。3年前の就任式でトランプ氏が訴えたのは国際主義への決別だった。

 米国が主導したグローバル化は世界経済を拡大させた。だが、国内格差は深まり、労働者は低賃金に苦しみ、薬物中毒が社会問題になった。

 不法移民の存在を敵視する風潮も広がり、民族ナショナリズムの台頭を招いている。移民排斥を訴える白人至上主義はその一例だろう。

 市民生活の劣化と分断は国際主義のもとで米国が疲弊した結果だ――。そう考えるトランプ氏が、やり玉に挙げたのが貿易と同盟である。

 最大の貿易相手国で最大の貿易赤字を抱える中国に高関税を課す貿易戦争を仕掛け、ほぼすべての輸入製品に発動する直前まで至った。

 中国からの大量の廉価製品が米国の雇用を奪っているという。だが、米国経済の繁栄は自由貿易のたまものだ。保護主義はそれに逆行する。

 世界にまたがる同盟ネットワークは米国主導の安定と秩序の要だ。歴代政権は世界の安全を守るための投資すべき資産と位置付けていた。

 しかし、トランプ氏は削減すべきコストとみる。負担は同盟国が担うべきで、米軍駐留経費を増額しなければ撤収すると言う。こうした態度は米国への信頼を低下させている。

 では、大統領がトランプ氏から代われば世界秩序を重視する元の米国に戻るのだろうか。

 ライバルの民主党候補者らは自由貿易と同盟関係の重要性を訴える。だが、外交ではトランプ氏と通底する点が多いことも見過ごせない。

 多くは紛争への介入に慎重で、同盟は「慈善ではない」と言う候補もいる。外交は二の次で、経済や医療など内政問題を重視する。

 トランプ氏が敗れても、左派ポピュリズムの立場を取る民主党候補が勝利すれば、米国が国際舞台から退いていくのはまぬがれないだろう。

ミドルパワーの連携で

 「世界が深刻な無秩序状態に陥るのを懸念する」。カーター米政権で国家安全保障問題担当の大統領補佐官を務めたブレジンスキー氏は3年前、トランプ時代を占っていた。

 トランプ政権は年明け早々にイランの大物司令官を無人機攻撃で殺害した。トランプ氏の衝動的な判断が中東情勢を混迷に陥れている。

 米国の身勝手さの一方で中国とロシアは強権的な外交を展開する。世界は動揺し、ブレジンスキー氏が予測した危険水域に近づきつつある。

 国際協調の衰退を食い止めつつ、米中露の力関係の変化に対応した現実的な秩序をどう構築するか。

 21世紀の世界が抱える共通の課題は多い。核軍縮をはじめ国際テロや貧困、温暖化対策は、積み上げてきた国際連携を一段と強化すべきだ。

 新たな脅威であるサイバー攻撃やAI(人工知能)兵器には国際的なルール作りが求められる。軍事先進国の米中露なしには実現できない。

 貿易の円滑化や投資の拡大は重要だが、同時に労働者の利益を保護する方策を協力して探求しなければ、国内格差の拡大を助長しかねない。

 国際主義の恩恵を最も受けてきたのは日本や欧州、カナダ、オーストラリアなど米国と連携する民主的なミドルパワーの国々だ。

 米国に軌道修正を迫るべきだ。世界の課題にリーダーシップを発揮し、米国が同盟は不可欠だと認識するような存在感を示す必要がある。

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