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台風19号 避難所には「行かない」 路上生活者「差別受ける」

台風19号で流された路上生活者とみられる男性の遺体が見つかった多摩川左岸の河川敷周辺=東京都国立市で2019年10月17日、安達恒太郎撮影

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 昨年10月12日の台風19号から間もなく3カ月。その際に東京都台東区が路上生活者の避難所受け入れを拒否した問題で、支援団体が路上生活者たちに、当時の行動や避難所開設を知っていたかなどの聞き取り調査を実施した。調査の中で浮かび上がってきたのは、「避難所があったとしても行かない」という声だ。なぜ避難所に入ろうとしないのか。避難所を万人に開くだけで対応は十分と言えるのか。受け入れ拒否が浮き彫りにした課題を追った。【塩田彩】

支援団体調査で多数

路上生活者向けの医療相談会の準備をするボランティアら=東京都台東区で2019年11月、塩田彩撮影

 昨年11月の晴れた日曜日、東京スカイツリーが頭上にそびえる台東区の隅田川河川敷で、路上生活者向けの医療相談会が開かれた。生活困窮者支援に携わる一般社団法人「あじいる」など複数の団体が月1回開催し、ボランティアの医師らによる診察や医療相談、医薬品の配布のほか、炊き出しや散髪が行われる。この日は約200人が集まり、相談ブースの前には長い列ができた。「会いたかったよ」「体調はどう?」。顔見知りの来場者に話しかけるボランティアの声があちこちから聞こえてくる。

住所書いてと言われ

 台東区内で路上生活を送る男性(62)は「避難所は一般住民が来るから最初からあてにしていない。絶対トラブルになる。見た目で最初から差別されるから」と言い切る。元大工で、路上生活は約20年。道路の高架下で雨をしのいだ。「ぬれていないところを探して歩き回って、夜は全然寝られなかった」

 東京都千代田区のJR東京駅周辺で寝泊まりする女性(49)は「いつもは(開いている)建物のトイレを借りる。でもあの日は全部閉まってたから、トイレに行けず本当に困った」と振り返る。他の仲間と一つのテントに集まり、台風が過ぎるのを待ったという。

 台風が接近していた10月12日、あじいるのメンバーは午後1時ごろから、JR上野駅周辺で、近くの台東区立忍岡小学校の避難所を案内するチラシを非常食と共に配っていた。

 しばらくしてチラシを配っているスタッフの元に1人の男性がやってきた。「避難所に行ったけど、断られた」。男性は北海道出身。避難所で住所を書くよう言われ、住民票が台東区にないことを伝えると、受け入れを断られたという。

 あじいるが12日夕方、受け入れ拒否をツイッターで発信すると、台東区の対応に批判が集中した。台東区は毎日新聞の取材に「住所不定者の避難を想定していなかった」と釈明した。

 だが、SNSでは、台東区の対応を擁護する意見も目立った。「衛生面や素行が心配」「悪臭に耐えられるのか」「(受け入れるべきだという意見は)理想論だ」……。台東区には問題発覚後、約200件の意見がメールとはがきで寄せられた。7割は区の対応を批判するものだったが、区の対応を擁護する意見も3割あったという。あじいる代表で医師の今川篤子さんは「差別や偏見のまなざしを誰よりも感じているのは、ほかでもない路上で生活している人たち自身なのに」と話す。

多数が野外で過ごす

 今川さんの言葉を裏付けるのが、あじいるが10月末に実施した聞き取り調査の結果だ。ボランティアらが手分けして上野周辺に寝泊まりする人たちを訪ね▽台風情報を知っていたか▽避難所を利用したいか――などを質問した。

 聞き取りに応じたのは男性19人、女性2人の計21人。台風が来ることを知っていたのは17人いたが、避難所を利用した人はおらず、15人が野外で過ごしたという。「避難所を利用したいか」という問いに「利用したくない」と答えたのは13人。「利用したい」(6人)の倍以上に上った。

 利用したくない理由は、次のようなものだ。

 「邪魔になるから」「ホームレスはだめだろ……」「こんな格好じゃ嫌な顔される」「人がいるところは苦手。普段から交番の人に助けてもらえないから」「あきらめている。野宿していて蹴飛ばされたり日ごろから嫌な思いをしている」「自分が動けるうちは、子供とか老人を優先してほしい」

 今川さんは「避難所は地域住民による運営が基本。行政だけではなく、住民の理解を深める必要があります」と語る。

日常的な排除原因

「つくろい東京ファンド」の稲葉剛代表理事

 貧困支援をする一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表理事の稲葉剛さんは「台東区の問題は日常の社会的排除の積み重ねによって引き起こされたものだ」と語る。

 例えば東京都新宿区では、区が民間委託で運営する路上生活者向けの相談事業所1カ所にシャワーがあり、洗濯機も設置されている。誰でも無料で利用できる。稲葉さんは「(路上生活者が)こうした支援にアクセスできていれば、体を清潔に保つことができ、周囲の偏見も緩和されるだろう」と話す。「災害時の対応だけでは根本的な解決にはならない。行政はまず、当事者の声を聞くところから始めてほしい」

 東京都世田谷区は台風19号の際、多摩川沿いの公園管理事務所を路上生活者向けの避難所として開放した。シャワーも設置されている。台風の時は毎回、近くの路上生活者たちに事務所の開放を知らせるチラシを配る。稲葉さんは「専用の避難所を作りつつ通常の避難所でも受け入れるという両方の対策が必要になる」と話す。

 台東区は昨年12月、水害時に区役所など2カ所で路上生活者らを受け入れる方針を決定。雨風が強くなった場合は他の避難所でも受け入れる。支援団体とともに避難先を周知していくという。

 路上生活者の実数を記録する活動などに携わる市民団体「ARCH(アーチ)」共同代表の河西奈緒さんは「さまざまな背景を持った人たちが暮らすのが都市の当たり前の姿。一人一人が抱える課題を公共空間の中でどう解決できるかを考えることが私たちが目指す方向のはずです」と話す。

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