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社説

拓論’20 AI技術と社会 人間中心は揺るがせない

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 AI(人工知能)技術が、急速に進歩している。

 囲碁のAIが初めてプロ棋士を降し、衝撃を与えたのは2015年のことだ。以来、ゲームから家電、医療、サービスなどへ応用が広がった。20年代はAIがさらに進化をとげ、社会を大きく変えるだろう。

 AIは、膨大なデータの中から共通する特徴を見いだす「深層学習」で自ら進歩する。あらゆる事象からデータを集める環境が今春、日本でも整う。高速大容量の次世代通信規格(5G)が本格導入される。

 期待されるのが自動運転技術の進歩だ。自動運転車は、刻々変わる状況をAIが判断し、操縦する。医師がAIの支援を受けてロボットアームを操り、離島の患者を治療する遠隔地手術も、5Gで実現に近づく。

恩恵の陰に潜む懸念

 AIは、新たな労働力として有望だ。見落としが許されないがんなどの画像診断、膨大な資料を参照する司法関連業務、1秒の遅れが巨額の損失につながる金融取引などでは、AIは人間の能力をしのぐ。

 一方で、職を失う人も出る。ホワイトカラーや高額報酬のエリートも例外ではない。米国では、就労人口の約半数がAIによって代替可能な仕事に就いているとの分析がある。

 自動運転や遠隔手術でAIがミスをした場合の責任問題については、法制度が未整備だ。運転中に飛び出した子どもを避けることで、高齢者が乗る対向車に正面衝突してしまった場合、AIの判断を社会が受け入れるだろうか。

 作曲や小説執筆などの芸術活動をさせる研究も進むが、AIが生み出した作品の著作権の取り扱いは明確でない。近い将来、AIが大量生産した知的財産が人間の創作活動を妨げる事態もありえよう。

 「AIは我々に大きな機会と厄介な難題の両方をもたらすだろう」。米国の理論物理学者、マックス・テグマーク氏は、著書「LIFE3・0」でこう指摘する。

 恩恵は計り知れないが、使い方次第では取り返しのつかない事態が起きうる。そうなる前に、有益で安全なAIにするための規制や社会制度を整えるべきだという。

 「厄介な難題」の最たるものが軍事利用だ。敵の識別から攻撃の可否までAIが担う無人兵器を、米国、中国、イスラエルなどは既に開発しているという。だが、これらを規制する国際的な議論は進まない。

 AI研究は米中が突出している。グーグルなど「GAFA」と呼ばれる米IT企業が優れた人材を集め、巨額の投資で生み出した成果が、消費者の意識や行動まで操る危険性が指摘されている。中国はAI技術を、軍事的な覇権だけでなく国民統制の手段としても用いている。

成熟社会のインフラに

 20世紀、技術革新の駆動力は主に戦争だった。レーダーや宇宙技術、インターネットなどは、いずれも軍事研究の果実だ。

 目標を与えられた科学者や技術者たちは「どうすれば実現できるか」だけを考えて取り組んだ。だが、成果が厄災を起こして初めて、彼らは事の重大さに気づく。その典型例が、米政府による原爆開発だ。

 AIが同じ経過をたどらぬよう、技術が持つ影の部分と向き合い、人間中心の原則を貫く必要がある。広範囲な応用を考えれば、工学や計算科学などAIにかかわる専門家だけでなく、哲学、倫理学、法学、心理学といった人文・社会科学の視点が欠かせない。

 日本では今後、少子高齢化と人口減少が加速する。都市圏では要介護人口が急増し、介護や医療の人手不足も強まるだろう。地方では、過疎化によって買い物や医療機関への受診、行政サービスなどにも支障が出る恐れがある。

 わが国固有のさまざまな課題に対して、AI技術を使った解決策を提示することは、現実的で公益にもかなう。民生面での応用を着実に進め、成熟した社会でのよりよい生活インフラとして根付かせてほしい。

 もちろん、歓迎しない事態への目配りは必要だ。今年は、科学技術政策の根拠となる基本法改正が予定され、人文科学分野が対象に加わる。文理の専門家が連携することで、人間にとって守るべき価値を考えながら、科学技術の価値を多角的に考える取り組みが可能になる。財政支援も充実する。

 AIをめぐる協働が、そのモデルケースとなることを期待したい。

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