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古市憲寿さん、千葉雅也さん… 学者が小説を執筆するわけ

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小説を発表する学者たち(敬称略)
小説を発表する学者たち(敬称略)

 15日に選考会が開かれた第162回芥川賞では、立命館大准教授で哲学者の千葉雅也さん(41)が初めて発表した小説で候補入りし、話題になった。今、文学界では、文学研究者ではない他分野の学者が小説を発表し、賞レースにも絡む例が増えている。なぜ学者たちは小説での表現に向かうのだろうか?【大原一城、須藤唯哉】

ジャンルのくびきから逃れ、小説の方へ 千葉雅也さん

 「可能性を広げられると思った」

 2019年、小説デビュー作「デッドライン」を文芸誌に発表した千葉さんは、小説執筆に向かった動機をそう振り返る。「小説って何を書けば小説なのか、実は定まっていない。そこがすごく面白い」と静かに魅力を語った。

 哲学の分野では実践的思想書「勉強の哲学」(17年)がベストセラーになるなど、既に気鋭の学者として知られてきた。

 「哲学の仕事では、狭い範囲で書くというよりも、雑多な書き方を試みてきました。そしてジャンルのくびきから逃れようと思う中で、雑種性を持つ小説の方に近付いていきました」

 芥川賞に候補入りすると、大きく報道され「びっくりした」という。「出版のキャリアは積んできたが、全く異質の経験をすることになった。驚くと同時に、新鮮な好奇心を感じています。なぜ小説というものはこれほど耳目を集めるのか、不思議な思いを抱きます」

 「デッドライン」は男子大学院生が主人公だ。哲学を学びながら、同性との性愛にふける日々を描いた。同作は19年の野間文芸新人賞を受賞。先日の芥川賞は逃したが、ここ最近の純文学の分野では、大きな話題をさらった。千葉さんは同性愛者であることを公表しており、「自分の問題を取り扱いたいと思った」と、経験を反映させて書いたことも明かしている。

 野間文芸新人賞の贈呈式では「21世紀になったばかりの東京で、自分が過ごしたその時間を、フィクションを通して復活させたかった」と作品の狙いを語った。今後について「小説と研究の両輪でやっていきたい。広く『書き物』としか言いようのないものを書いていきたい」と話し、大きな拍手を受けた。

知らない海に潜った感じ 岸政彦さん

 同じく立命館大大学院の教授、岸政彦さん(52)は、16年に発表したデビュー作「ビニール傘」が芥川、三島由紀夫両賞の候補となった。3作目の短編小説「図書室」も昨年の三島賞候補になり、作家としての活動に注目が集まるが、本職は沖縄やマイノリティーの人々から生活史の聞き取り調査を続ける社会学者だ。

 岸さんの小説では、身近に存在しそうな等身大の人物が丁寧に描かれることから、市井の人々の声に耳を傾ける研究とのつながりを探ってしまう。だが、本人…

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