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災害時、“多様な性”尻込み 自治体「配慮」4分の1 避難所利用、ためらう当事者

熊本地震の被災者が集まった避難所。LGBTを含む性的少数者への配慮は避難所運営でも求められている=熊本県西原村で2016年5月12日、森田剛史撮影

 災害時の避難所などでLGBTを含む性的少数者が苦しまずに過ごせる環境は整っているのか。毎日新聞が実施した全国121自治体(都道府県、道府県庁所在地、政令市、東京23区)へのアンケートでは、地域防災計画などに性的少数者への「配慮」を盛り込んだ自治体は4分の1未満にとどまり、多様な性への対応が広がっていない実態が見えてきた。各地で大規模災害が相次ぐ中、当事者らは不安の中に置かれている。【加藤小夜、杣谷健太】

 「家にはいたくないけれど、避難所には行けないという声をよく聞いた」

 心と体の性が一致しないトランスジェンダーで、戸籍上は女性だが男性として生きる曽方(そがた)晴希さん(30)=熊本市=は2016年4月の熊本地震を振り返る。「トイレや風呂、着替えの時も、名前を呼ばれた時にも(見た目の性と違って)変な目で見られてしまう」「パートナーと過ごすのも周りの目が気になる」。同じ性的少数者の友人や知人らはこう言って、避難所行きをためらっていたという。

 曽方さんは幼少期から自身の性別に違和感があった。中学校では制服で悩み、人間不信もあって将来を悲観し自傷行為に及んだ。両親からもらった名前は「美希」。だが20歳を過ぎて改名し、昨秋乳房や子宮を取る外科手術を受けた。今後戸籍の性別も変える予定だ。

 熊本地震の本震に襲われたのは未明の時間帯。暗がりの中、胸の膨らみを隠すための「ナベシャツ」といわれる補整着を急いで着用して外に逃げた。自宅はしばらく水道やガスが止まり、数日は車中泊で過ごした。自宅も何とか使えたため避難所には入らずに済んだ曽方さんだが、友人らと似た悩みは経験した。地震発生のしばらく後、市内の入浴施設が無料開放されていると聞いた。当時は女性の体だったが、ホルモン療法を続けていたため声は低く、ひげも生えていた。人目を考えると行けなかった。

 性的少数者の中には、打ち明けたことで周囲と疎遠になる事例も少なくない。こうした場合は親類などを頼れず、避難所にも行けなければ追い詰められる恐れもある。曽方さんは当事者の孤立を懸念し、対策の促進を願う。「性の多様性を理解して、行政は平時から避難所での配慮を考えてほしい」

 男女共用のトイレの設置、更衣室や入浴施設を1人ずつ使える時間帯の設定、生理用品や下着などの物資を個別に届ける仕組みの検討――。愛知県は2018年3月、避難所運営マニュアルを見直し、性的少数者に配慮する支援策を加えた。熊本地震をきっかけに検討会を設置し、そこでの意見を反映させた。

 山形市も19年3月、市職員や教職員を対象に作製したハンドブックに「配慮すべき点を検討しておく必要がある」と盛り込み、当事者や支援者が集まれる場所作りなどの支援策を紹介。同年8月には地域防災計画にも性的少数者に配慮した環境整備に努めると明記した。

 ただ毎日新聞の121自治体への調査で、地域防災計画や避難所運営マニュアルに「配慮」を盛り込んだのはまだ28自治体に過ぎない。弘前大男女共同参画推進室の山下梓助教によると、国内で災害時の性的少数者への支援が着目されるようになったのは11年の東日本大震災以降という。山下助教が主宰する支援団体も16年に対応策を紹介する「にじいろ防災ガイド」を公表するなどし、認知は広がりつつあるが、長年見過ごされてきた課題だけに一足飛びとはいかない。

 国にも動きがないわけではない。内閣府男女共同参画局は13年5月にまとめた「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」の事例集で、男女共用トイレについて「最低でも一つは設置するよう検討することが必要」、避難者名簿の性別欄について「自由記述欄とする方法も考えられる」と明記している。

 しかし自治体の計画作成の基準となる国の防災基本計画や避難所運営ガイドラインに記載はなく、多くの自治体は、性的指向や性自認にかかわる敏感な問題を前に、二の足を踏んでいるのが現状だ。「盛り込む必要性は理解しているが、内閣府の各種ガイドライン等についても明確な記載がないので、検討ができていない」。アンケートで「検討していない」と回答した滋賀県はこう説明した。また、東日本大震災を…

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