仙台市郊外の閑静な住宅街にある東芝の解析センター。マイナス80度に保たれた冷凍庫には、専用容器に入った数千人分の血液が整然と保管されていた。「これは提供に同意した従業員の血液。新たな事業に向けて近く、ここで従業員の遺伝子解析を始めます」。雨宮功・ライフサイエンス推進室長が力を込めた。
東芝は2019年、世界的にも例のない「遺伝子ビジネス」に乗り出した。それは、自社やグループ企業の従業員の遺伝情報を集め、健康診断の記録などと合わせた巨大データベースの構築だ。遺伝情報と、生活習慣病など疾患の関連性を分析する。将来的には契約したほかの企業の従業員についても遺伝子を調べ、個人の遺伝情報に基づいた予防法などを提供する事業につなげる。契約企業にとっては、従業員の健康や医療費の削減につながるメリットがあるとアピールしている。
不正会計や原発事業の巨額損失で深刻な経営危機に陥った東芝。新たな事業を模索する中で目を付けたのは、グループ企業を含む約13万人の従業員の個人情報だった。
日本の企業は法律で毎年の健康診断が義務づけられており、東芝には数十年分の従業員の健診記録が保存されている。さらに、会社の健康保険組合にはレセプト(診療報酬明細書)もあり、投薬の記録も残る。「これらに遺伝情報を組み合わせたデータは、これまでにない価値がある」(雨宮室長)。来年度内には従業員1万人分の遺伝情報が集まる見込みで、将来的には他企業を合わせ数十万人分を集める。東芝は、遺伝情報の解析を含めた「精密医療」を新規成長事業の一つに位置づけ、24年度以降に黒字化を目指す計画だ。
このように集団を長期間追跡してデータを集める医学調査はコホート調査と呼ばれ、一般的には特定の地域住民が対象になる。だが、住民一人一人の血液を採取するには手間ひまを要する上に、転居などで継続した調査が難しいという課題を抱える。一方で東芝のように日本の大企業は、定期健診で数万人規模の従業員の情報を一気に得られる。定年まで同じ企業に勤める人も多く、追跡しやすい。
東芝によると、同意を得て集めた従業員の遺伝情報について、改めて同意をとり、そのデータベースを創薬の研究開発などに利用する可能性もあるという。米沢実・新規事業推進室長は「遺伝情報の利用がビジネスとして成り立つことを示したい」と自信をみせた。
グループ企業を…
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