NHKがテレビ番組を放送と同時にインターネットにも配信する「常時同時配信」にゴーサインが出た。総務省が条件付きで認可した。4月から本格的に実施する。
ネット配信は、これまで大規模災害時やスポーツ中継に限られていた。今年の東京五輪・パラリンピックを見据え、同時配信は新たな視聴者獲得へ向けた念願だった。
NHKには若年層を中心とした「テレビ離れ」加速への危機感がある。英国のBBCは、同時配信で若年層の取り込みに成功したという。
ネット社会の進展で、スマートフォンによる配信動画の視聴が広がる。放送と通信の融合が進む中、ネット配信は止められない流れだ。
スマホがあれば、外出先でもドラマやニュースが手軽に視聴できるのは確かに利便性が高い。
その一方で、NHKの肥大化への懸念はぬぐえない。
NHKは年間約7000億円に上る潤沢な受信料収入を背景に、民放を大きく上回る予算を投じて番組を制作している。
ネット業務がなし崩しに拡大されれば、NHKと共に放送の一翼を担ってきた民放を圧迫しかねない。民放側が、節度ある抑制的な運営を繰り返し求めてきたのも理解できる。
今回の認可を巡り、総務省がネット業務費用の削減など異例の再検討を求めたのもそんな懸念からだ。
NHKは配信時間を限定するなど費用を圧縮し、BS4波を3波に整理する方針を示した。
認可条件に示されたように、ネット業務費用が膨らまないようにする具体策の導入や、民放との連携を進めるべきだ。
子会社の整理など経営改革の手もゆるめてはならない。昨年から段階的に引き下げている受信料の水準も不断の検討が求められる。
ネット配信を視聴するにはテレビの受信料契約が前提となる。ただし、将来的にネットだけの視聴に負担を求めるかは明確にしていない。
世帯数が減少し、ネット視聴が進めば、新たな受信料制度の論議が浮上することも考えられる。だが、まずは経営の効率化に努めるべきだ。
あまねく全国に良質の番組を放送するのが使命だ。ネット時代も公共放送の理念を忘れてはならない。