7年間の政権運営をどう総括し、残る任期で何を成し遂げようとしているのか。安倍晋三首相の施政方針演説に具体的な説明はなかった。
驚いたのは相次いだ政権の不祥事に一言も触れなかったことだ。
「桜を見る会」を巡っては、身内優遇の実態とともに公文書管理の違法性も明らかになっている。
統合型リゾート(IR)事件で問題とされているのは、首相の任命した副大臣の在任中の汚職容疑だ。
昨秋辞任した2閣僚は公職選挙法違反の疑いが指摘され、河井克行前法相夫妻は家宅捜索を受けた。
いずれも政治の信頼にかかわる重大な不祥事であり、政権自らが反省して真相を究明すべきなのに、首相にそのつもりはないようだ。
さらに目についたのは、不都合な現実から目を背ける姿勢だ。
首相は東京五輪・パラリンピックを契機に「国民一丸となって新しい時代へと踏み出していこう」と呼びかけた。高度経済成長下で行われた56年前の五輪と重ね、国威発揚に利用するかのような印象を受ける。
続けて首相は「日本はもう成長できない」という「諦めの壁」が7年前にあったとして、それを「完全に打ち破ることができた」と語った。旧民主党政権当時の経済状況を批判したいのだろう。だが、何をもって打ち破ったと言えるのか。
首相はアベノミクスの成果として税収の増加や雇用環境の改善を誇った。しかし、国の借金が1100兆円を超えたことや、人口減少が加速していることなど、不都合なデータも直視しなければ総括にならない。
「深刻さを増す少子化の問題に真正面から立ち向かっていく」と言いながら、2019年の出生数が87万人を割る見込みとなったことに言及しない姿勢にも疑問を感じる。
首相は全世代型社会保障改革の実行を宣言したが、人口減少や東京一極集中という中長期的な課題と向き合った政策とは言い難い。
「新しい時代」だと繰り返し、憲法改正が「歴史的な使命」だと強調したのは、長期政権の求心力を維持しようとする思惑からだろうか。
五輪に乗じて根拠なき楽観ムードを振りまき、国民の目をごまかそうとしているのだとすれば、五輪の政治利用だと言わざるを得ない。