たかが名簿、と言うなかれ。「桜を見る会」の問題の核心の一つ「消えた招待者名簿」である。政府は「ルールに従い、名簿は廃棄した」と繰り返し「どこが問題なのだ」と言わんばかりである。本当にそうなのか? 内閣府の公文書管理委員会の委員長代理として、公文書ガイドラインの策定に携わった三宅弘弁護士に問題を解きほぐしてもらった。【吉井理記/統合デジタル取材センター】
――三宅さん、実は桜を見る会に招待されたことがある、と聞きました。
◆2013年から18年まで5回、参加しました。もちろん、話題の「首相枠」ではなくて、公文書管理委の関係で、事務局をしている内閣府の担当の人が招待状を持ってきてくれて。白い四角い封筒の中に、招待状と受付票が入っていて……。
――ほほう。
◆受付票には番号が振られているから、行かないと分かる、内閣府の人が困るかもしれない、と思って。それで連れ合い(妻)と一緒に行ったんです。配偶者なら連れて行ってもいい、となっていた。新宿御苑に午前8時半くらいに行って、受付票を渡して、それだけで入れたことに驚いた。仮に連れ合いじゃない人を連れて行っても、あれではノーチェックでしょう。
――今回の問題では、会に反社会的勢力とされる人も参加し、政治家と写真を撮っていたとされています。
◆そう。あの時からずさんだな、と思ってました。会場ではタケノコご飯や桜餅なんかがあったと記憶していますが、18年は仕事で遅れ、9時半ごろ着いたら、もう何も残っていなかった(笑い)。今回の問題で、予算が約1700万円なのに、支出は5000万円超だったことを初めて知って、驚いて。どこの世界・組織でも、予算の範囲で仕事をするのは当たり前ですね。なぜ予算を超過したのか、会計検査院が調べる時に当然、招待者名簿が必要ですが、担当の内閣府がこれを保存期間1年未満の文書として「廃棄した」と説明していることを知り、もっと驚きました。
――法的には問題ないのでしょうか。
◆あります。まず押さえておきたいのは、名簿を捨てたことも、名簿を出さないことも、公文書管理法の趣旨に反する、ということです。1条にはこうある。「(公文書の適正な保存や利用を図ることで)現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすること」。1条を受け、4条は「行政機関の職員は、経緯も含め、意思決定の過程や事業の実績を合理的に跡づけ、または検証することができるよう、軽微なものを除いて文書を作成しなければならない」(要旨)とあります。
――基本、文書はすべて残せ、と。
◆この条文の意味は重い。意思決定の過程や事業の検証のために、文書は残しておきなさい、ということです。桜を見る会で言えば、当然、名簿は検証に必要な文書です。
――東京新聞が昨年4月16日付朝刊で桜を見る会の予算が年々増えていることを報じ、共産党の宮本徹衆院議員が5月9日に内閣府に関係資料の提供を求めた。でも内閣府は「保存期間1年未満」を理由に、その直後に名簿をシュレッダーにかけ、電子データも削除した、と説明しています。
◆まず、電子データの問題を見てみましょう。少なくとも、議員が資料提供を求めた時点で、電子データのバックアップデータ(災害時やデータ誤消去に備え、予備のサーバーで保存しているデータ)はあったんです。だから議員から資料請求があった時点で「バックアップデータは残っている」と言わなければならなかったことは明白です。国政調査権のある国会の議員が、事業を検証するために欠かせないのですから。
――内閣府は「バックアップデータは災害時に備えるためで、普段は職員が取り出せるものではなく、保存・公開の対象になる行政文書の定義である『組織共用性(職員が組織的にその文書を用いること)』がない。ゆえに行政文書ではない」という主張をしていますが……。
◆法の趣旨をねじ曲げた解釈です。14年の集団的自衛権行使容認の閣議決定の時、内閣法制局が国会答弁の想定問答集を作ったことがあるんです。その文書は法制局長官の決裁が得られず「不採用」になり、紙の文書は廃棄されたんですが、電子データは「廃棄すべきもの」として、内閣…
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1975年東京生まれ。西日本新聞社を経て2004年入社。憲法・平和問題、永田町の小ネタ、政治家と思想、東京の酒場に関心があります。会社では上司に、家では妻と娘と猫にしかられる毎日を、ビールとミステリ、落語、モダンジャズで癒やしています。ジャズは20代のころ「ジャズに詳しい男はモテる」と耳に挟み、聞き始めました。ジャズには少し詳しくなりましたが、モテませんでした。記者なのに人見知り。
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