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12、1月 文芸誌新年号 私小説的な村上龍=田中和生

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作家の村上龍さん=東京都内のホテルで10日、米田堅持撮影
作家の村上龍さん=東京都内のホテルで10日、米田堅持撮影

 まず文芸誌の新年号では、村上龍の久しぶりとなる長篇(ちょうへん)「MISSING 失われているもの」(『新潮』一月号)が目を惹(ひ)く。一九七六年に長篇『限りなく透明に近いブルー』で鮮やかにデビューした村上も、四十年以上作品を書きつづけて六十代後半を迎え、ついにこのような作品を書くようになったのかという感慨を覚える。精神的な不安を抱えているらしい語り手が、幻想と現実が混乱するなかで知り合いの女性や母親から呼びかけられ、作者自身を思わせる「わたし」の私的な記憶が引き出されるという仕掛けである。

 日本の自然主義以来の伝統をくつがえす傑作長篇を書いてきた村上が、技巧を凝らしてぎりぎりの私小説的な「わたし」に迫っている。とくに戦前の朝鮮半島で高等女学校に通っていたという母親の記憶が印象深く、敗戦後の日本における母親と「わたし」の関係も味わい深い。その意味でこの作品は、自然主義に批判的だった夏目漱石にとっての私小説的な作品『道草』のような位置づけであり、これから書かれるべき村上龍論では参照必須…

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