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「いいお子さんですね」
他人に子供を褒められると、鷗外は「はあ、いい子です」と、臆面もなく答えた。
周囲は「あれが西洋流なのかねえ」と、苦笑していたようだ。親子の密着度が高い現代では珍しくない“子褒め”だが、西洋よりもむしろ江戸時代の子育てに近いように私は思う。日本人は、子が幼い間はともかく可愛がって育てた。むしろ当時の西洋の方が、子供は親に隷属する存在だ。鷗外の文学に見て取れる通り、彼は決して西洋至上主義ではない。
ただ、明治の時代にあってはやはり稀有(けう)な父親であっただろう。子供たちの名前が於菟(おと)、茉莉(まり)、不律(ふりつ)、杏奴(あんぬ)、類(るい)と西洋風であったことは有名だが、「アンヌコ」「ボンチコ」などの愛称で可愛がりに可愛がり、自身は「パッパ」と呼ばれた。
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