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スミレの香り

/218 馳星周 画 田中靖夫

 知子が、この本のどこがそんなに気に入ったのかと訊(き)いても、真波は曖昧に笑うだけでちゃんと答えてはくれなかったらしい。

 長じるにつれ、真波が『ハックルベリー・フィンの冒険』を開く頻度は少なくなり、やがて、知子もこの本のことはほとんど忘れていたのではないか。

 だが、真波は忘れなかったのだ。『ハックルベリー・フィンの冒険』は今でもバイブルなのだ。

 なにかが足下に落ちた。わたしは腰をかがめ、それを拾い上げた。

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