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「水球女子」初の五輪へ 競技人口2000人の挑戦

 東京五輪の団体球技で、日本の女子チームが初めて出場する競技がある。「水中の格闘技」とも言われる水球。女子日本代表の愛称は、男子と同じ「ポセイドンジャパン」だ。競技人口は国内で約2000人。「勝てば盛り上がる自国開催で、マイナー競技のイメージを覆す絶好のチャンス」。初めての五輪に挑む彼女たちの姿を追った。【村上正】

 プールには少し緊張感が漂っていた。1月に岡山県倉敷市で行われた強化合宿。17~32歳の代表候補選手31人が分かれた紅白戦では、積極的にシュートを放つ場面が目立った。強化合宿や国際親善試合を経て、5月には12人に絞り込まれる。

本宮監督の話を聞く選手たち=岡山県倉敷市で2020年1月12日午後3時56分、村上正撮影

 「同じ水球でも男女で全く違うスポーツ」。攻撃の要として期待される有馬優美(22)=東京女子体育大=は語る。下半身だけ水着を身につける男子と違い、女子は上半身の水着を相手選手につかまれることもしばしば。素早くパスを回したり、シュートといった場面でもプレーが一時止まったりする。激しくもみ合い、水着の一部が破れることもある。

 まさに「水中の格闘技」と称されるゆえん。ゴールキーパーを含め1チーム7人で構成し、ボールをゴールに入れて得点を競う。試合時間は1ピリオド8分間の4ピリオド制。その間は水深2メートル以上のプールの底に足を着けず、立ち泳ぎを続けながらプレーする過酷さだ。有馬は「休む暇はなく、国際試合では特につかみが激しい。簡単にほどくことができず、身動きがとれなくなる」と話す。

19年世界選手権のオーストラリア戦の第4ピリオドで、シュートを放つ有馬優美(左)=韓国・光州で2019年7月18日、宮武祐希撮影

 海外勢との体格差を埋めるため、努力の日々だ。一般女性が1日に必要とするエネルギー量の約2倍にあたる約4000キロカロリーを摂取する選手もいる。腰に重さ3キロのベルトを巻いて泳ぎ、3キロのボールを投げ合うなど試行錯誤を重ねる。2017年春から代表で主将を務める鈴木琴莉(23)=秀明大職=は「身長の低い自分たちがいかに海外の大柄な選手と戦うことができるか」と話す。

 水球女子の歴史は浅い。男子から遅れること100年。00年シドニー五輪で、開催国オーストラリアの強い要望で正式種目に採用された。日本も代表チームを結成し始めたが、国内で女子が出場できる大会はほとんどなかった。

 岡山で毎年開催される15歳以下の全日本ユース選手権「桃太郎カップ」の創設は08年。国民体育大会は昨年、五輪に向けた強化として初実施されたばかりで、全国高校総体(インターハイ)の正式種目にはなっていない。鈴木は「水球を知ってもらえるよう、五輪で結果を残さないといけない」と意気込んでいる。

弱小チームからの脱却

 日本水連によると、水球の国内競技人口は約7000人で、そのうち女子は約2000人。男子は16年リオデジャネイロ五輪で32年ぶりに出場を果たしたが、女子は「世界との差が大きい」として、世界最終予選の派遣を見送る考えも示されたほど弱小チーム扱いだった。

選手に戦術を伝える水球女子日本代表の本宮万記弘監督=岡山県倉敷市で2020年1月12日午後4時42分、村上正撮影

 男女とも開催国枠が与えられた東京五輪を見据え、日本水連は女子の改革に着手。指揮官には、カウンターを得意とする男子の指導経験が豊富な本宮万記弘(まきひろ)氏(51)を指名した。

 18年2月に就任した本宮監督は現役時代、五輪には縁がなかったが、強豪スペインリーグで6年間プレー。引退後は指導者として、母校前橋商高をインターハイ3連覇に導いた。17年ブダペスト世界選手権では男子日本代表のコーチも務めたものの女子の指導経験はほとんどなく、「最初は戸惑うことばかりだった」と振り返る。

19年世界選手権のオーストラリア戦に敗れ、厳しい表情をみせる日本の選手たち=韓国・光州で2019年7月18日、宮武祐希撮影

 小柄な選手が多い日本が海外勢に対して有利に立つためには、スピードを兼ね備えた豊富な泳力が欠かせない。本宮監督は「スタミナ勝負に持ち込まないと大きな選手に勝てない」と断言する。合宿で多い日には50メートルプールで1日約8000メートルを泳ぎ込んできた。実戦形式を増やし、積極的な攻撃展開を意識したスピード水球の戦術を植え付けてきた。

 強化は少しずつだが実りつつある。19年世界選手権(韓国・光州)。1次リーグD組の日本は、銅メダルを獲得したオーストラリアを含め3試合すべて2点差で敗れた。順位決定戦に回った崖っぷちの状況からキューバと南アフリカに快勝。16チーム中13位で大会を終えた。

 五輪に出場する他の9カ国は格上ばかりで、厳しい戦いは予想される。「一つでも多く勝つことで、実力でも出場できたと日本女子の水球を認めてもらいたい」。本宮監督をはじめ、選手らも飛躍を誓う。

村上正

毎日新聞東京本社運動部。1984年、神戸市生まれ。2007年入社。舞鶴支局、神戸支局を経て、大阪本社社会部では府警などを担当。東京運動部では17年4月から水泳やサーフィンを担当。16年リオデジャネイロ五輪を取材した感動から、長女に「リオ」と命名した。