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東京へ ともに歩む

毎日新聞

東京五輪予選を突破し、自力での出場権獲得を目指す並木月海=東京都北区のナショナルトレーニングセンターで2020年2月10日午後4時15分、倉沢仁志撮影

Passion

チョウのように舞い、「アリ」のように刺す ボクシング女子・並木月海の挑戦

 ボクシングで日本女子初の五輪出場を狙うボクサーがいる。フライ級の並木月海(つきみ、21歳)=自衛隊=は153センチと小柄ながら、2018年世界選手権銅メダルの実力者だ。真夏の両国国技館で東京五輪のリングに立つ日を思い描く並木は「ちょこまか動き回る『アリ』ですかね」と自らを評するが、この「アリ」、ただの「アリ」ではなく……。【倉沢仁志】

優れたスピード 名ボクサーに重なるスタイル

ミット打ちをする並木月海(左)。東京五輪出場を目指し、練習にも熱がこもる=東京都北区のナショナルトレーニングセンターで2020年2月10日午後5時4分、倉沢仁志撮影

 小刻みにステップを踏みながら、軽快にリングの中を不規則に動く。やはり「アリ」のようにすばしっこい。「身長が低い分、小回りが利く」と、持ち前のスピードを生かし距離を取りながら的確にポイントを稼ぐアウトボクシングも得意な並木は往年の名ボクサーにスタイルが重なる。チョウのように舞い、ハチのように刺す――。そう例えられた世界ヘビー級元王者、ムハマド・アリさん(故人)だ。「最初はそこまで考えて『アリ』に例えたわけではないんですけど。確かに『アリのように刺す』って、良いですね」。虫と世界王者の二つの「アリ」に表情を崩した。

 また、並木は接近しての打撃戦にも対応できるオールラウンダーでもある。サウスポーながら、元々の利き手である右のボディーアッパーは強烈だ。「外だけでなく、どれだけ素早く相手の(懐の)中に入れるかが鍵。最近は、自分から攻めながらも、カウンターを狙っていくということも練習している」と語る。

 新型コロナウイルスによる肺炎拡大の影響で、東京五輪出場権を懸けたアジア・オセアニア予選の開催地は中国・武漢からヨルダン・アンマンに変更された。日程は約1カ月先となったが、並木は「早く決めて本番を迎えたかったという気持ちはあるけど、しっかり作り上げているので不安はない」。あどけない表情とは対照的に、言葉には自信がにじむ。

シャドーボクシングをする並木月海=東京都板橋区の東洋大総合スポーツセンターで2020年1月28日午前11時22分、倉沢仁志撮影

 千葉県成田市出身。4人きょうだいの末っ子で、兄2人と姉の影響を受け、幼稚園から小学校までは空手やキックボクシングに取り組んできた。「神童」とも呼ばれるキックボクサーの那須川天心(21)とは幼なじみで、幼少時に大会で対戦したこともあるという。中学入学後に「普通の女の子のような生活がしたい」と一度は競技を離れたが、「1年くらいで飽きちゃったんですよね」と並木。再び格闘技の道に戻り、実家近くのボクシングジムでグローブをつけた。

 高校は強豪の埼玉・花咲徳栄へ。通学には片道2時間以上もかかった。しかも朝練習に出るため、午前4時台の始発電車に乗らなければならなかった。「よくやっていたなと思う。もう一回やれと言われたら、ちょっと考えるかな。自衛隊も朝は早いですが、そこまでではないので」と笑う。ただ、ハイレベルな環境で拳を磨きたいという思いがつらさを上回った。国内、海外で順調に実績を重ね、19年の世界選手権出場者と全日本選手権優勝者で争うプレーオフを制し、五輪代表を懸けたアジア・オセアニア予選への出場が決まった。

開催国枠ではなく「自力」で五輪目指す

 アマチュアボクシングで女子が注目されたのは、新たに正式種目となった12年ロンドン五輪と、16年リオデジャネイロ五輪を目指したお笑いコンビ「南海キャンディーズ」の「しずちゃん」こと山崎静代さんが登場した時だろう。

 だが、しずちゃんを含め、女子では予選を勝ち抜いて五輪出場を果たした選手はいない。だからこそ、勝ち抜いて初の「自力出場」にこだわっている。指導する矢田圭一コーチは「もともとの素材の良さに加えて、最近はラウンド中でも頭を使って考えるボクシングができるようになってきた」と高評価。日本ボクシング連盟の本博国強化委員長も「並木に関しては、出場枠獲得は堅いんじゃないかと思う」と見る。

 「自分としては、女子初の代表決定というものにこだわっていきたい。東京オリンピックだったから開催国枠で出場できたなんて、周りから言われたくない」。3月3日から始まる運命の予選。中東の地で、夢舞台の切符をつかみ取ってみせる。

ボクシング東京五輪への道

 3月3~11日に開催されるアジア・オセアニア予選で、上位進出を果たせば五輪出場権を獲得できる。この大会で出場権を得られなければ、5月13~24日の世界最終予選(パリ)で五輪切符を目指す。

 日本は開催国として6枠(男子4、女子2)が割り当てられている。これは自力で出場権を獲得できなかった場合に最低限出場できる数になる。予選を勝ち抜いて出場権を獲得した数だけ開催国枠は減る。例えば、女子が自力で2枠を取った場合、開催国枠で出場できる選手はゼロになる。

倉沢仁志

毎日新聞東京本社運動部。1987年、長野県生まれ。2010年入社。高知、和歌山両支局を経て17年から東京運動部。レスリング、重量挙げなどを担当。高校時代には重量挙げで全国高校総体に出場したが、階級で10キロ以上軽い三宅宏実選手の記録には遠く及ばない。