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福井のお坊さん、魅力発信 寺で婚活、トレイルラン=中川悠 /大阪

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「写経体験は老若男女が楽しんでいます」と杉本成範さん。BASE宝塚で開いたイベントで小学生が仕上げた写経とともに=宝塚市湯本町のBASE宝塚で 拡大
「写経体験は老若男女が楽しんでいます」と杉本成範さん。BASE宝塚で開いたイベントで小学生が仕上げた写経とともに=宝塚市湯本町のBASE宝塚で

 「お寺の周囲の山をトレイルランしませんか?」「お寺の本堂を使って、婚活イベントをします!」

 少し風変わりなイベントでお寺の魅力を発信している場所は、兵庫県宝塚市のコワーキング(協働)スペース「BASE宝塚」。福井県から寺の副住職が車で2時間かけてやってきて、イベントをPRしたり、写経体験の集まりを開いたりしている。

 同県小浜市の飯盛寺(はんじょうじ)の副住職である杉本成範(しげのり)さん(42)。「小浜市は3万弱の人口に対して140ものお寺があるんです」。一つのお寺で200人を見る計算だが、人口の減少、檀家離れなどで廃寺になってしまうところも少なくない。杉本さんは飯盛寺のほか、同県おおい町の長楽寺の住職も兼ねている。

 杉本さんは宝塚生まれ。大学を卒業後、神戸のアパレル会社に就職し、情報システム部門で働いてきた。飯盛寺、長楽寺で住職を務めてきた祖父と父の背中を見て育ち、神社仏閣の魅力と維持する難しさを肌で感じてきた。27歳の時に高野山で修行を積み、僧侶の資格を取り、飯盛寺の副住職となった。

 当初は会社勤めを続けながら盆と正月に寺の仕事を手伝う程度だったが、現実を目の当たりにした。飯盛寺は小浜市の山中にあり、近くの民家までは1キロある。冬には雪が積もり、都会に出た檀家が墓参りに戻ってくるだけでも一苦労だ。古い寺のかやぶき屋根をふき替えるには数億円が必要になる。昔は地域の寄付で賄えたが、今は寄付も集まらない。檀家も毎月のように離れていく。

 元来、お寺には地域に開かれた立派な本堂や魅力的な景観があった。一方、檀家と長年生きてきた歴史の中でいつしか閉鎖的な存在になってしまった。「飯盛寺は自身の存続だけを考えるのではなく、地域全体、福井県、北陸の『繁盛』を目指すべきではないのか」。杉本さんは寺の魅力と可能性を都市部でも発信することにした。

 杉本さんは5年前から山野を走るトレイルランニングを趣味として始めた。季節ごとに寺の周囲を走る。目に映る自然の美しさ、手つかずの山の中を走る楽しさ。今まで気づかなかった景色に感動した。都会の人たちもきっとファンになってくれるに違いない。そう確信した。

 まずトレイルランの世界で有名なランナーを招き、ランイベントを開催したところ、関西や関東から数十人が参加してくれた。主催した婚活イベントでは、飯盛寺での宿坊体験を通して、カップルが誕生した。

 今、杉本さんは「走る副住職」と自ら名乗り、月に数回は宝塚へ通い、若い世代が行ってみたいと思えるようなイベントを企画している。仕掛けたイベントは十数回。コツコツとした取り組みの先に、確実に飯盛寺、小浜、福井を知り、足を運んでくれる人が増えてきた。

 杉本さんは2020年春に会社を退職して福井に移住し、住職の仕事に専念する予定だ。「寺を継ぐ一人として、次の世代にお寺って面白いな、マイナスばかりじゃないなと思ってもらえる発信をしていきたい」。未来の「繁盛」を目指して走り続ける。<次回は3月6日掲載予定>


 ■人物略歴

中川悠(なかがわ・はるか)さん

 1978年、兵庫県伊丹市生まれ。NPO法人チュラキューブ代表理事。情報誌編集の経験を生かし「編集」の発想で社会課題の解決策を探る「イシューキュレーター」と名乗る。福祉から農業、漁業、伝統産業の支援など活動の幅を広げている。

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