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南光の「偏愛」コレクション

「ノンフィクション書くのが結構大変な性格なんです」 実は30年来の友人 沢木耕太郎さんとのトーク拡大版

沢木耕太郎さん(左)と桂南光さん=大阪市北区で2020年1月29日、久保玲撮影

 日本を代表するノンフィクション作家・沢木耕太郎さんと、上方落語の大看板・桂南光さん。一見接点がなさそうな2人ですが、実は30年来の友人で、沢木さん来阪の際には仲間とともにおいしいお酒を酌み交わすそうです。とはいえ、じっくり対談するのは今回が初めて。1月末、日本一長い商店街の古本屋を訪ねて来阪した沢木さんに、南光さんが長年温めていた疑問・質問をぶつけました。インタビューのコツ、小説執筆の動機、父という存在、そして2人が名を連ねる謎の団体「宇宙意思の会」――。話題は多岐に及びました。【構成・山田夢留】

心を開く鍵

南光 初めてお会いしてからもう30年ぐらいになりますよね。その間、沢木さんはノンフィクション作家からエッセイストになり、小説家になり、カメラマンにもなった。いろんな顔を持ってはりますけど、最初はノンフィクションですよね。

沢木 もちろん。今でも。

南光 前からいっぺん聞いてみたかったんですけど、ノンフィクション作家として当事者からいろんなことを聞き出す時にね、今、沢木耕太郎やというたら、相手は「ああ、沢木さんですか」となるやろけども、最初の頃は「沢木耕太郎、誰?」みたいな時もあったでしょ。そういう何もない時に行って、腹割って胸開いてしゃべってもらうのは難しくなかったですか。

沢木 昔、篠山紀信さんが「やっぱり有名になった方が簡単だ」という話をした時に、僕は「それは逆なんですよ」と言った。有名になればなるほど取材はしにくくなるんですよって。なぜか。全く何にも知られていない、実績も持ってない人が、誰かに何か話を聞きたいっていって、受け入れてもらうためにはもちろん時間がかかる。だけど一回、無名の私が相手を解かしていって対応してもらえるようになったらば、それは有名な誰かが行って、有名な篠山です、沢木です、向こうも、ああー、篠山さん、沢木さんって対応してくれる、というのと、深度、深さが全然違う。

南光 あー、なるほど。

沢木 だから有名になればなるほど取材はしにくくなりますよ。最初の頃、競馬馬の取材する時に、厩舎(きゅうしゃ)に厩務員さんと一緒に住み込んで仕事をやるということをやったわけですけど(『敗れざる者たち』文芸春秋)、周りの見る目がやっぱり違ってくる。なんか有名な人が取材に来て、この馬どうなの、とか聞いてるのとは全然違うじゃない。

南光 違いますね。

沢木 「月刊エコノミスト」で1年間、『若き実力者たち』(文芸春秋)っていう連載をさせてもらったんですけど、その時なんて、取材に行っても誰も知らないわけ。当たり前ですよね。小澤征爾さんの回では、事務所から「時間がないから東京から名古屋までの新幹線の中だけならいいです」と言われたんですね。僕は「全然構わないです」って。実はその前に、「毎日グラフ」で永六輔さんのインタビューをすることになったんだけど、その時は「秋田に来てくれれば秋田から大館までの電車の中なら話せます」と言われてね。編集部はそこまでしなくていいと言ったんだけど、そう言われてやめるのは逃げるっていうか負けるような感じがしてさ。秋田に行った。そしたら永さんが「普通、こういう条件を出すとみんな来ないんだけど、よく来たな」と。

南光 ほお。それでもう勝ちですね。

沢木 そう。大館まで取材したら、これから青森まで行くから一緒に行かないか、飯食わないか、結局丸一日の取材ですよね。その時に、永さんはレッスンしてくれたんだろうと思ったわけよ。こちらの情熱を見せれば向こうも応えてくれる、というレッスン。その直後に小澤征爾さんの事務所からそう言われたから、「いいですよ」って。東京から名古屋までの取材にちゃんと行けば、きっと何か展開があるだろうと思ったら、まったくその通りで、名古屋で降りたら小澤さんが「みそ煮込みうどんが食べたい。一緒に食べに行かないか」って。そこから「コンサートは聴きに来るの?」って聞かれたから、帰るつもりだったけど行きますと言って行ったらば、コンサートの終わりにちょっと時間あるか、と。そこから普通の話ができたわけ。ちゃんと手間ひまをいとわずやっていくと、とにかく断られるとか拒絶されるという経験はなかったな。

面白がる才能

南光 初めからインタビューするという仕事に誠意も情熱もあって、難しい条件出されても「行きますよ」っていう気持ちを持ってはったからですね。普通、編集者も断るようなところなら、やめとくわ、となりますよ。

沢木 そこは多分ね、面白い、と思うんだと思う。面倒だな、いやだなっていうよりは、面白い。旅をしててもおんなじことなんだけど、ああ、参ったなっていうトラブルが起きることがあるじゃないですか。でも、どっかで、あ、面白いな、と思ってるところがある。そこはもし、才能っていう言葉を使わせてもらうと、何でも面白がることができる才能があったんだと思う。

南光 僕の場合、この仕事してるから、ルーブル美術館でスリに全部盗まれても、これはネタになるな、と思う。でも、沢木さん別にネタはいらないでしょ。

沢木 友達に1回話すことができたら、それは元が取れるじゃん(笑い)。仕事にならなくてもさ、友達に「あの時こんなことがあってさ、ばかだね」と。

南光 もともとの素晴らしい性格が功を奏したってことですね。

沢木 それはほんとに性格だよね。

南光 今度、これまでの対談を集めた本を出されるんですよね。

沢木 そうなんです。僕の場合、対談はがっちり長いページ数を取ってくれるところでしかやらなかった。それはかなり意図的で、文芸誌とかの雑誌やなんかでがっちりやるんだけど、そういう対談を10人ずつ4巻、岩波書店から「セッションズ」というタイトルで出します。

南光 「セッションズ」って面白いタイトルですね。

沢木 対談よりは僕が質問して聞く方が多いんだけど、インタビューかっていうと自分もよくしゃべってる。対談集もインタビュー集もおかしいしなあと思ってた時に、アメリカの映画を見てたら、心理療法で2人でやるカウンセリングをセッションって言ってたんです。ジャムセッションなんかもそうだけど、ある程度の方向性だけ決めて、あとは自由にやる。それがまさに同じだなあ、と。ある方向性に向かって自由にやらせてもらって、気がつくとどこかに着地しているっていう。1巻は『達人、かく語りき』ということで、吉本隆明、吉行淳之介、淀川長治、磯崎新、高峰秀子、西部邁、田辺聖子、瀬戸内寂聴、井上陽水、羽生善治の10人。

南光 すごいそうそうたる顔ぶれですね。楽しみにしてます。沢木さんはそういうすごい人たちでも無名の人でも、対応は変わらないでしょう。

沢木 淀川さんに「あんたはやさしい顔してほんとにひどいこと言うね」って言われたことある(笑い)。対応は、誰に対しても変わってないんじゃないかと思う。それって、どこかで戦略的な感じがあるらしくてね。ある時、新聞で連載小説をやることになって、社長、部長、デスク、担当記者と食事したんだけど、僕は担当記者には「そうですか。そうしましょう」とかって言ってるのに、社長には「そうなの」なんていう言葉を使ってたらしい。後で同席者に「逆に意図的にやってるだろう」って言われてね。

南光 意図的じゃないんでしょ。

沢木 意図的じゃないんだけど、巧(たく)まずしてそういう感じはあると思う。「偉い人に向かってへいこらしたところを見せなくていい」「それよりも立場の弱い人たちを大事にする」っていうのを周りの人に見せようって思ってるんだと思う。偉い人にはぞんざいでいいけど、偉くない人にちゃんと礼を尽くした対応をするっていうのは、かなり徹底してるかもしれないね。

南光 いろんな人たちの力関係を見てきたから、そういうことが身についたんでしょうね。現場の人には一番うれしいと思いますよ。だってその人と仕事するわけやし。

沢木 そうだよね。何かトラブルがあったとしても、君と一緒にやっていくわけだから、っていうことだよね。新聞社の担当の人とか雑誌の編集者とかね、みんな沢木さんはそういう人だって理解してくれてる気がしますね。

ノンフィクションのやましさ

南光 沢木さんは相手にすごく近付いて、そしてそこからもっと入っていってしまうでしょ。のめり込んでしまう。カシアス内藤さんのことなんかは『一瞬の夏』(新潮社)になったんやけど、そこまでいくか、というね。取材してる側が当事者になり、それが一つの作品になるっていうの、他でもありますよね。

沢木 仕事としてやってるんだけど、面白いと思ってやってるわけで、面白いっていうことを持続させたいと思うんじゃないかな。ここで終わり、となって、多くの場合は仕事として関わった人とさよならするんだけど、すべてさよならにはならなくて、いくつかは引きずってしまう。ノンフィクションのライターは、ある世界に入っていって出てくることができるから、どんな困難でも平気なわけ。出てこれない人たちが一番大変で、困難や何かに苦しむ。そこがある意味でやましいところで、いろんな世界に入っていって、いろんな疑似的な体験をして出てきちゃう。でもいくつかは、あ、これは出られないな、と思うところがあるわけよ。カシアス内藤君のことも、プロモーターになって、その後、喉のがんになってしまった彼にジムを持たせたいと思って、みんなでジムを作って、息子も東洋チャンピオンになって。

南光 僕も「ジム作るんでよかったら協力してください」って言われた時に、そこまでせんかてええのに、と思いました。でもあの文章を読んで参加させてもらおうと思ってね、その後、息子さんがチャンピオンになったって知ると、会(お)うたこともないのに身内の端の方におるみたいになって、うれしかったですよ。でもそれをあんまり…

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山田夢留

2001年入社。津支局、政治部などを経て2015年から学芸部。取材分野はお笑いや上方の演芸で、「南光の『偏愛』コレクション」「銀シャリのしゃシャリでてすみません」「桂二葉のけったいなやっちゃ!」などの連載を担当。大阪府八尾市出身。

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