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東京へ ともに歩む

毎日新聞

東京五輪を目指す女子ボクシング69キロ級の鬼頭茉衣=東京都北区で2020年2月10日午後4時12分、金子淳撮影

Passion

東京五輪を研究の場に 文武両道ボクサー・鬼頭茉衣の挑戦

 2020年東京五輪出場を目指す女子ボクシング69キロ級で22歳の鬼頭茉衣(きとう・まい)=中京大大学院=は、修士課程で社会学を研究する学者の卵でもある。目下の研究テーマは、女子ボクシングのエスノグラフィー(行動観察)。「五輪出場はボクサーとしての夢でもあるし、研究者としての夢でもある」。文武両道を追求する異色のボクサーは3月、五輪出場をかけて国際試合に臨む。【金子淳】

 愛知県みよし市出身。大学1年のときテレビで女子ボクシングを見て「自分に向いている」と感じ、その日のうちにジムの門をたたいた。初めてのスパーリング相手はプロの男子選手。「遠慮なくボコボコにされた」が、その夜は楽しさと高揚感で眠れなかった。

公開練習でスパーリングをする鬼頭茉衣=東京都北区で2020年2月10日午後4時26分、金子淳撮影

 昨夏に指導者を変えたのを機に頭角を現し、昨年10月の全日本選手権で優勝。五輪予選代表の座を射止めた。積極的に前へ出る攻撃的な姿勢が持ち味で、練習中は誰よりも大きな声で気合を入れる。「経験は少ないが、気持ちが強い」。本博国(もと・ひろくに)強化委員長もこう評価する。

 選手として練習に集中する一方で、鬼頭が続けているのがフィールドワークだ。合宿や試合で出会った選手たちに、女子ボクシングを始めた理由などを聞いてメモや録音をためている。これまでに数十人分の研究素材が集まったという。今後は修士論文に向けて高校の女子選手を対象にアンケートを行い、傾向を分析する予定だ。

 世界中からトップ選手が集まる東京五輪は、格好の研究の場でもある。「五輪の本来の目的は世界平和と人間形成。でも、それを知らない選手だっている。女だから差別を受けたことがあるという選手も多い」。勝利至上主義や男女差別、資本の格差――。女子選手として見聞きした事例は数多い。女子ボクシングの先行研究はほとんどないが、「ボクサーだからこそ分かる視点もあると思う」と論文の構想を練る。

 研究者として五輪の理念を考えながら、リングの上では勝利を求めて戦い続ける。自身の中で矛盾を感じることはないのか。そう聞くと、鬼頭は内に秘める闘志をのぞかせた。「アスリートとしてやっている以上、勝ちにこだわりたい」。3月には東京五輪の出場枠獲得を目指し、ヨルダンで行われるアジア・オセアニア予選に出場する。

金子淳

2006年入社。北海道報道部、外信部を経て14~18年にニューデリー特派員。インド総選挙やネパール大地震、ダッカ人質テロ、印パ関係とカシミール問題、ロヒンギャ難民危機などを取材。帰国後は東京社会部で日本の外国人社会や東京五輪などを担当しつつ、国際関係論を学ぶため大学院に通学。インド駐在中に双子の父になった。