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毎月数多くの公演に足を運び耳を傾けている鑑賞の達人が、1カ月で最も印象に残った演奏と、これから1カ月で聴き逃せないプログラムを紹介します。
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毎月数多くの公演に足を運ぶ鑑賞の達人に、1カ月で最も印象に残った演奏と、これから1カ月で聴き逃せないプログラムを紹介していただく新企画。第2回は、1月に開かれた公演から「ピカイチ」と「次点」、3月に開かれる公演から「イチオシ」と「次点」を、音楽評論家の東条碩夫さん、音楽ライターの柴田克彦さん、音楽ジャーナリストの池田卓夫さんと毬沙琳さん、そして宮嶋極さんに選んでもらった。

東条碩夫(音楽評論家)選
<東京芸術劇場 海外オーケストラシリーズ>
1月23日(木) 東京芸術劇場コンサートホール
エサ=ペッカ・サロネン(指揮)/フィルハーモニア管弦楽団/庄司紗矢香(ヴァイオリン)
ラヴェル:「クープランの墓」/シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調Op.47/ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

<読売日本交響楽団第594回定期演奏会>
1月15日(水) サントリーホール
下野竜也(指揮)/読売日本交響楽団/上野耕平(サクソフォン)
ショスタコーヴィチ:「エレジー」/ジョン・アダムズ:サクソフォン協奏曲/フェルドマン:「On Time and the Instrumental Factor」/グバイドゥーリナ:「ペスト流行時の酒宴」

首席指揮者サロネンのもと、フィルハーモニア管弦楽団は最高の演奏水準を示した。特に「春の祭典」におけるソロの見事さ、オーケストラの重量感の壮絶さは印象に残る。読響は久しぶりに下野竜也を定期公演の客演指揮者に迎え、かつてこのコンビが得意とした現代音楽プロで本領を発揮。

東条碩夫(音楽評論家)選
<東京・春・音楽祭 イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.2>
3月13日(金)、15日(日) 東京文化会館大ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/東京春祭特別オーケストラ/イタリア・オペラ・アカデミー合唱団/ルカ・ミケレッティ(マクベス)/アナスタシア・バルトリ(マクベス夫人)他
ヴェルディ:「マクベス」(演奏会形式字幕付き)

<びわ湖ホール プロデュースオペラ「神々の黄昏」>
3月7日(土)、8日(日) 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール大ホール
沼尻竜典(指揮)/ミヒャエル・ハンペ(演出)/京都市交響楽団/クリスティアン・フランツ(ジークフリート/7日)/エリン・ケイヴス(同/8日)/ステファニー・ミュター(ブリュンヒルデ/7日)/池田香織(同/8日)他
ワーグナー:「神々の黄昏」(ドイツ語舞台上演日本語字幕付き)
(※両日チケット完売)

今年の「東京・春・音楽祭」ではヴェルディの「マクベス」、プッチーニの「3部作」、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」と、3種の演奏会形式オペラ上演がそろう。その中でも巨匠ムーティが指揮するヴェルディは最大の聴きものだ。一方びわ湖ホールの「神々の黄昏」は、4年がかりで取り組んできた4部作「ニーベルングの指環」の完結編。

柴田克彦(音楽ライター)選
<東京芸術劇場 海外オーケストラシリーズ>
1月23日(木) 東京芸術劇場コンサートホール
エサ=ペッカ・サロネン(指揮)/フィルハーモニア管弦楽団/庄司紗矢香(ヴァイオリン)
ラヴェル:「クープランの墓」/シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調Op.47/ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

<新国立劇場 プッチーニ「ラ・ボエーム」>
1月28日(火) 新国立劇場オペラパレス
パオロ・カリニャーニ(指揮)/粟國淳(演出)/東京交響楽団/ニーノ・マチャイゼ(ミミ)/マッテオ・リッピ(ロドルフォ)/マリオ・カッシ(マルチェッロ)/辻井亜季穂(ムゼッタ)他
プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」全4幕(イタリア語上演/日本語及び英語字幕付き)

分析力とパッションが高次元で結合したサロネンの指揮に、これまでにないほどの集中力と技術力で応えるフィルハーモニア管……それはコンビ11年の集大成にふさわしい圧巻の凄演(せいえん)だった。東京の4公演すべてに現代オーケストラ音楽の極致が示され、正直それらが1月の1~4位で良いほどだ。新国立劇場の「ラ・ボエーム」は、名作の良さがストレートに表現された舞台&演奏に素直に感動。特にカリニャーニのツボを外さない指揮が光った。

柴田克彦(音楽ライター)選
<サー・アンドラーシュ・シフ ピアノ・リサイタル>
3月12日(木)、19日(木) 東京オペラシティ コンサートホール
アンドラーシュ・シフ(ピアノ)
(12日)メンデルスゾーン:幻想曲嬰へ短調 Op.28「スコットランド・ソナタ」/ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第24番嬰へ長調Op.78「テレーゼ」/J・S・バッハ:イギリス組曲第6番 ニ短調 BWV811他
(19日)シューマン:精霊の主題による変奏曲 WoO24/ブラームス:3つの間奏曲 Op.117/モーツァルト:ロンド イ短調 K.511/ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第26番 変ホ長調 Op.81a「告別」他


<東京・春・音楽祭 イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.2>
3月13日(金)、15日(日) 東京文化会館大ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/東京春祭特別オーケストラ/イタリア・オペラ・アカデミー合唱団/ルカ・ミケレッティ(マクベス)/アナスタシア・バルトリ(マクベス夫人)他
ヴェルディ:「マクベス」(演奏会形式字幕付き)

ピアニスト&音楽家として熟達の極みにあるシフのリサイタルは必聴。彼は吟味された音で作品の姿と自身の思いをじっくりと表現し、ピアノ音楽の意味をも教えてくれる。“ブラームスと彼が影響を受けた作曲家”による示唆に富んだプログラムも魅力的だ。ムーティの「マクベス」はアカデミーの公演だが、昨年と違って全曲上演なのがうれしい。歌手のグレードアップも相まって、現代最高のイタリア・オペラ指揮者の真価発揮が期待される。

池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
<東京芸術劇場 海外オーケストラシリーズ>
1月29日(水) 東京芸術劇場コンサートホール
エサ=ペッカ・サロネン(指揮)/フィルハーモニア管弦楽団
サロネン:「ジェミニ」/マーラー:交響曲第9番ニ長調

<堺シティオペラ第34回定期公演「アイーダ」>
1月11日(土)、12日(日) フェニーチェ堺大ホール
牧村邦彦(指揮)/粟國淳(演出)/ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団/堺シティオペラ記念合唱団/並河寿美(アイーダ/11日)/水野智絵(同/12日)/ルディ・パーク(ラダメス/11日)/藤田卓也(同/12日)/福原寿美枝(アムネリス/11日)/伊藤絵美(同/12日)他
ヴェルディ:「アイーダ」(イタリア語上演日本語字幕付き)

サロネンはマーラー「交響曲第9番」に付きまとうペシミズム、辞世の句説を見事に覆し作曲者絶頂期のオプティミスティックな傑作としての再現に徹した。堺の「アイーダ」は若者の愛と死の物語を極めた粟國淳演出の進境が著しかった。

池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
<びわ湖ホール プロデュースオペラ「神々の黄昏」>
3月7日(土)、8日(日) 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール大ホール
沼尻竜典(指揮)/ミヒャエル・ハンペ(演出)/京都市交響楽団/クリスティアン・フランツ(ジークフリート/7日)/エリン・ケイヴス(同/8日)/ステファニー・ミュター(ブリュンヒルデ/7日)/池田香織(同/8日)他
ワーグナー:「神々の黄昏」(ドイツ語舞台上演日本語字幕付き)
(※両日チケット完売)


<「身近なホールのクラシック」 大阪交響楽団 特別演奏会>
3月18日(水) 箕面市立メイプルホール大ホール
坂入健司郎(指揮)/石上真由子(ヴァイオリン)/大阪交響楽団
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 Op.61/同:交響曲第7番イ長調Op.92

びわ湖の「神々」は4年がかりの大プロジェクト完結編。80歳を超え生涯初の「リング」演出を手がけたM・ハンペの総決算でもある。「サラリーマン兼業指揮者」から一歩ずつプロ楽団に進出してきた坂入は盟友の石上とともにベートーヴェン・プロに挑む。

毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
<東京芸術劇場 海外オーケストラシリーズ>
1月28日(火) 東京芸術劇場
エサ=ペッカ・サロネン(指揮)/フィルハーモニア管弦楽団/庄司紗矢香(ヴァイオリン)
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調Op.77/ストラヴィンスキー:バレエ音楽「火の鳥」全曲(1910年原典版)他

<グランドオペラ共同制作「カルメン」>
1月25日(土) 札幌文化芸術劇場hitaru
エリアス・グランディ(指揮)/田尾下哲(演出)/札幌交響楽団/二期会合唱団/札幌文化芸術劇場カルメン合唱団/加藤のぞみ(カルメン)/福井敬(ドン・ホセ)/今井俊輔(エスカミーリョ)/高橋絵理(ミカエラ)他
ビゼー:歌劇「カルメン」(全4幕フランス語上演・日本語及び英語字幕付き/新制作)

フィルハーモニア管、首席指揮者として最後のツアーは芸術劇場での3公演をすべて聴き、「春の祭典」、マーラーの9番いずれも稀有(けう)の演奏。「火の鳥」ではあらゆる奏者の音楽が、自然な息づかいのまま生命力にあふれ、サロネンのタクトへの信頼感が最高の響きをもたらした。庄司紗矢香のショスタコーヴィチは客席の魂を楽器に憑依(ひょうい)させたような演奏。札幌の「カルメン」はハイデルベルク歌劇場と同管弦楽団の音楽総監督エリアス・グランディの日本オペラ・デビュー。田尾下演出によるショービジネス界に読み替えたカルメンを爽快かつ華麗な音作りで成功に導いた。

毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
<オーケストラ・アンサンブル金沢 第36回東京定期公演>
3月23日(月) サントリーホール
出演者 マルク・ミンコフスキ(指揮)/オーケストラ・アンサンブル金沢/ヨハネス・ヒンターホルツァー(ホルン)/トビー・スペンス(テノール)
ブラームス:セレナード第2番イ長調Op.16/ブリテン:テノール、ホルンと弦楽のためのセレナードOp.31/ドヴォルザーク:スラヴ舞曲集Op.46(全曲)

<サー・アンドラーシュ・シフ ピアノ・リサイタル>
3月12日(木) 東京オペラシティ コンサートホール
アンドラーシュ・シフ(ピアノ)
メンデルスゾーン:幻想曲嬰へ短調 Op.28「スコットランド・ソナタ」/ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第24番嬰へ長調Op.78「テレーゼ」/J・S・バッハ:イギリス組曲第6番 ニ短調 BWV811他

音の魔術師、ミンコフスキが芸術監督を務めるオーケストラ・アンサンブル金沢を振る。個性的なプログラムも、耳なじみのない曲も彼のタクトなら、間違いなく夢中で聴けるだろう。世界的なピアニスト、シフが昨年11月に続き、早くもソロで来日。前回ベートーヴェンの協奏曲の弾き振りで、自らのオケと共に極上の音楽を聴かせてくれただけに、今回のリサイタルも聴き逃すことはできない。

宮嶋極(音楽ジャーナリスト)選
<東京芸術劇場 海外オーケストラシリーズ>
1月29日(水) 東京芸術劇場コンサートホール
エサ=ペッカ・サロネン(指揮)/フィルハーモニア管弦楽団
サロネン:「ジェミニ」/マーラー:交響曲第9番ニ長調

<NHK交響楽団定期公演Aプログラム>
1月12日(日) NHKホール
クリストフ・エッシェンバッハ(指揮)/マリソル・モンタルヴォ(S)/藤村実穂子(MS)/新国立劇場合唱団/NHK交響楽団
マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」

サロネンはマーラー9番の複雑なコンテクストを明快に整理して聴衆に提示しながらも、音楽を機械的に進めずに、ひとつひとつの楽想を丁寧かつ表情豊かに紡いで説得力に富んだ演奏に仕上げた。エッシェンバッハ&N響のマーラー2番はいつもの同オケのスタイルとは一線を画したアプローチでコッテリ系濃厚表現の連続。面白かった。

宮嶋極(音楽ジャーナリスト)選
<東京・春・音楽祭 イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.2>
3月13日(金)、15日(日) 東京文化会館大ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/東京春祭特別オーケストラ/イタリア・オペラ・アカデミー合唱団/ルカ・ミケレッティ(マクベス)/アナスタシア・バルトリ(マクベス夫人)他
ヴェルディ:「マクベス」(演奏会形式字幕付き)


<ジャナンドレア・ノセダ指揮 ワシントン・ナショナル交響楽団>
3月11日(水) 東京芸術劇場コンサートホール
ジャナンドレア・ノセダ(指揮)/ワシントン・ナショナル交響楽団
シューベルト:交響曲第7番ロ短調「未完成」/マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調

東京春祭で昨年から始まったムーティによるイタリア・オペラ・アカデミー。巨匠がヴェルディを題材に若手音楽家にその演奏法の神髄を伝授する。昨年、「リゴレット」の解説を聞いて彼の確固たる信念と作品に対する真摯(しんし)な姿勢に心動かされた。6日、東京オペラシティでの解説会、14日の受講若手音楽家による抜粋公演も合わせて鑑賞することをお勧めしたい。次点はノセダのマーラー、情熱が爆発するような熱演が期待される。