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梅津時比古・特別編集委員の「コンサート」にまつわるエッセー。

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庄司紗矢香のシベリウス《バイオリン協奏曲》 幻想は誰のものなのか=梅津時比古

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=Hikaru.☆撮影
=Hikaru.☆撮影

 ピアニッシモで弦の和音が細かく刻まれると、吹き付ける雪のように聞こえる。シベリウス《バイオリン協奏曲》第1楽章冒頭のオーケストラ。わずかな間をおいて独奏バイオリンが入ってくる。その長く引き伸ばされるバイオリンの音は、多くの奏者が前奏に合わせて静謐(せいひつ)な透明感を目指す。だが、庄司紗矢香の音は透きとおっているが、血が脈打っていた。浮遊しているが、地に着いてゆく。凜(りん)としているが、なまめかしい。まるで、傷ついた白い大きな鳥が、しんしんと雪の降る原に舞い降りたよう。白い幻想は大きく跳ね、思うままに羽を伸ばしながらも、無鉄砲にならない。

 その音は孤高を象徴し、しかし雪の冷たさの中にいるとむしろ温かく感じられるように、聴く者を包み込む。白一色の中に、さまざまな色が映り込んでいる。魅入られてしまう。

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