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終わらない氷河期~疲弊する現場で

「どれくらい子どもたちと話していないだろう」 51歳個人配送業男性のため息

 パソコンのワンクリックで簡単に商品を注文でき、あらゆるものが宅配される時代。消費者が利便性を享受する一方で、ドライバーの労働環境は厳しい。バブル期に不動産業で高収入を得ていた男性は、その後の「氷河期」で転職を繰り返した末、行き着いた仕事が、個人請負型の配送ドライバーだった。【中川聡子/統合デジタル取材センター】

 「もうどれくらい子どもたちと話していないだろう……」。午後11時、シルバーのワゴン車を運転しながら、近藤啓介さん(51)=仮名、東京都在住=はふと考えたが、最後に話した場面が思い出せない。軽貨物の配送ドライバーとして働き、朝9時ごろから午後3時まで荷物を運び、夕方は体を休め、夜にはまた午後7時から午後11時ごろまで仕事に出る生活を続けて1年になる。都内や神奈川県で1日平均120個くらいの荷物を運ぶ。会社員ではなく、個人事業主として毎日、スマートフォンのアプリで仕事を取っており、明日の仕事の保証はない。思うように休日も取れない。

 札幌市で育った近藤さんは、商業高校を卒業し、18歳で地元の建設会社に就職した。昭和から平成に移るころで、バブル景気のまっただ中、1989年、21歳で不動産の営業職に転職する。年収は一気に1000万円を超え、26歳で保育士の女性と結婚。2人の子に恵まれた。

 しかし、91年にバブルがはじけ景気後退が始まり、不動産業は窮地に追い込まれる。札幌市内の不動産会社を2社ほど経験し、35歳で東京都内の不動産会社に入社した。営業ノルマは過酷だった。「2000万~3000万円の契約を月1本」が絶対で、1日500件もの営業電話をかけなければならない。手に受話器をくくりつけられ、電話営業を強要される社員もいたという。会社も営業先も「パワハラ地獄。完全にメンタルをやられました」(近藤さん)。経営が傾き、給料は歩合制になり、月収30万円ほど。「もう耐えられない」。入社して6年後に退職した。その後、広告代理店の役員運転手を5年務めた後、友人の自動車販売店を手伝うなどして当座をしのいだ。

 近藤さんは2019年に入り、インターネット上で「配送マッチングサービス」を提供するある業者の存在を知る。荷主からの配送依頼を取り、登録ドライバーに配送業務を委託する。ドライバーはあくまで個人事業主。アプリ上で、業務内容のリストが表示され、ドライバーが業務請負を申し込む(エントリ…

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中川聡子

2006年入社。千葉支局、東京・社会部、生活報道部を経て、統合デジタル取材センター。性差別を追った年間連載「ガラスの天井」取材班として、16年貧困ジャーナリズム賞。19年にも「児童扶養手当の資格確認を巡るスクープ報道」で同賞を受けた。ジェンダーや家族、格差に関わる問題を中心に取材している。

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