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「晴耕雨読」の夢(上)「全部受け入れて生きる」東ティモール住民から学んだ

まきストーブの前で食事をする及川稜乙さん(左)とテイ子さん=2020年1月30日午前9時7分、藤原章生撮影

 「晴耕雨読」という言葉にひかれた。土をいじったこともなく、農業の「の」の字も知らないのにだ。老後の不安? なくはない。でも、それよりも何よりも、日々の気持ちに浮き沈み、そううつのない安寧に至ってみたい、というかなわぬ夢からだろう。そんな境地に至れるのか? 長野の先達たちを訪ねた。【藤原章生/夕刊報道グループ】

 最近、老後がブームだ。あくまでも私の頭の中のことである。

 ついこの前まで老後など考えたこともなかったのに、仲間や友人が次々と早期退職し、私自身、50代も末となりようやくにして引退後のシミュレーションが頭をめぐり始めたというわけだ。

 「第二の人生」とよく聞く。どうせなら全く違う人生を生きてみたいと思ったりもする。「ローカルバスで友人、知人を訪ね歩き宿代を浮かせる居候の旅、世界一周まる3年」「いまだ知らない中国であらゆるバイトをしながら中国語研究」といった挑戦的なものから、「日本徒歩縦断」や「四国八十八カ所巡り」など割と軽めのものまでいろいろ思い浮かぶが、あくまでも基本は「移動」だ。

 そんなことを考えていたら、こんなセリフが目にとまった。

 <日本人にとって理想の生活は、晴耕雨読。それが一番落ち着くんです>(「辛口甘口へらず口」1995年)

 インタビュー資料として読んだ石川好さん(73)の言葉だ。アメリカの農園で長年肉体労働をした末、作家になった人の言うことなので心に残った。

 その時、私の中にアメリカの俳優、ロバート・ミッチャム(1917~97年)の顔が浮かんだ。テレビで日本の映画監督か俳優がこんな話をしていた。

 アメリカ西海岸にあるミッチャムの自宅に招かれたときのこと。外は焼けるような真夏の砂漠なのに彼の邸宅はエアコンで冷え冷えとしていて、奥の居間でミッチャムが暖炉にまきをくべていた。招かれた日本の監督か俳優は「まさに贅沢(ぜいたく)中の贅沢ですよ」と得意げに語っていたが、私は「ばかじゃないか」と思った。

 あと、海外に暮らす日本人の家を訪ねると、最初は皆大きなソファでゆったりくつろいでいるが、酒も入ってくると、人々はまるでこたつのように小さなテーブルを囲い始め、あぐらをかいて談笑する、ということがよくあった。

 つまり、晴耕雨読の私のイメージはアメリカ人の贅沢とは全く逆の、小さな空間でつましくも貧しくも心豊かに暮らす、というものだ。

 だが、そう甘いものではないはず…

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藤原章生

福島県常磐市(現いわき市)生まれ、東京育ち。北海道大学工学部資源開発工学科卒業後、住友金属鉱山に入社。1989年、毎日新聞社記者に転じる。長野支局を経て1992年より外信部。ヨハネスブルク特派員(1995〜2001年)、メキシコ市支局長(2002〜2006年)、ローマ支局長(2008〜2012年)、夕刊編集部記者を経て2013年4月より編集委員兼郡山支局長、2014年4月より編集委員(地方部兼デジタル報道センター所属)。2005年、アフリカを舞台にした短編集『絵はがきにされた少年』で第3回開高健ノンフィクション賞を受賞。主な著書に『ガルシア=マルケスに葬られた女』(集英社、2007)、『翻弄者』(集英社、2009)、『ギリシャ危機の真実 ルポ「破綻」国家を行く』(毎日新聞社 2010)、『資本主義の「終わりのはじまり」』新潮選書、2012)社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会発行の点字月刊誌「点字ジャーナル」に長文コラム「自分が変わること」を連載中。

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