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佐藤優・評 『地中海世界 ギリシア・ローマの歴史』=弓削達・著

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 (講談社学術文庫・1012円)

古典古代の暮らし、通説逆転の挑発

 約二千年にわたる古代ギリシアとローマの歴史を一体のものとして記述する意欲的な試みだ。<ギリシアとローマを一つの世界として捉えようとするときに、ひとはしばしば「古典古代」という概念によりかかる。しかしながら、「古典古代」という概念は特定の時代の特定の人びとの時代意識、あるいは価値意識を前提にした概念であって、それはただちにわれわれのものにはなりえない。人間性と個性と理性の解放をねがい、理性の進歩にこそ人間の幸福があると信じた時代の人びとにとって、ギリシアとローマは、回帰すべき、模範とすべき時代であり、「古典」古代であった。この信仰を共有しない現代のわれわれにとって、ギリシア・ローマは「古典古代」ではありえないのである>

 古典古代を理想化するのは、中世を暗黒時代とするルネサンス期のヒューマニズムに基づくものだ。第一次、第二次の世界大戦による大量殺戮(さつりく)と大量破壊を経験した現代人は、ルネサンス期のような楽観的人間観を維持することができない。弓削氏は、以下の方法でギリシアとローマの歴史を一体のものとしてとらえることができると考える。<歴史とは現在と過去との対話であり問答である、というE・H・カーの名句をふまえ…

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