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にほんでいきる

受け子になったマイケル コロンビア出身、被告に 拙い日本語、職失い孤立深め

仕事が見つからず義父の車で生活していたときも、この公園で空を見て過ごした=2020年2月14日午後1時21分、玉城達郎撮影

 「もう一度、社会でやり直す機会を、与えていただけないでしょうか」。2020年1月、特殊詐欺に関与したとされたコロンビア国籍の被告の男(26)は東京地裁の裁判の最終弁論で、祈るように訴えた。弁護側は「日本語が分からずニュースも見ない。特殊詐欺を知らなかった」と主張したが、検察は「特殊詐欺は公知の事実」として懲役5年6月を求刑した。来日15年。裁判や関係者の証言からは、日本社会の中で孤立を深めていった姿が浮かぶ。【堀智行】

 被告の名前はマイケル。日本人男性と結婚した母親に呼び寄せられ、00年ごろ、1歳上の姉と来日した。福島県の小学校に入学したが、言葉がまったく分からず、学校も外国籍の児童を受け入れた経験がなかった。学校になじめないまま、半年で姉とコロンビアの祖父母のもとへ帰国した。

 5年生のときに親子で暮らしたいと姉と再来日し、千葉県内の小学校に転入した。放課後に日本語を習ったが上達せず、同級生にからかわれ続けた。ランドセルを買う金がなく、コロンビアで使っていた青いリュックサックで学校に行くと「ここは外国じゃない。普通のカバンを持ってこい」とばかにされた。

 中学になると、いじめがエスカレートした。休み時間に1人で教室にいると、トイレの前に呼び出された。同級生に言われるがまま、コンセントに差し込まれた2本のシャープペンシルの芯を触ると、全身に電気が走った。大笑いする同級生たちを見て涙がこぼれた。「言葉が分からないから先生にも伝えられない。どうしたらいいか分からなかった」

 当時、義父は群馬県で単身赴任中、母も弁当工場の仕事に追われ、1カ月近く家を空けることもあった。家事は姉と分担した。親に心配をかけたくなくて、悩みを相談することもできなかった。

 初めて友だちができたのは中学2年生のとき。新たに転入してきたフィリピン国籍とモンゴル国籍の生徒だった。クラスは別々だったが、休み時間になると3人で階段に集まった。スペイン語とモンゴル語とタガログ語。それぞれの国の辞書を片手に、覚えたての日本語で会話した。

 友だちができると学校も少し楽しくなった。3年生になり、工業高校に進学するという目標ができた。面接と作文の試験に備え、少しでも発音を日本人に近づけようと鏡に向かって毎日練習した。面接試験で将来の夢を聞かれ、懸命に答えた。「車関係の仕事がしたい。エンジンを作ってみたい」。合格発表の日、掲示板に自分の受験番号を見つけた。「やったー」。一緒に受験した友人に思わず飛びついた。

 高校には進学できなかった。家計が苦しく学費を用意できなかった。日本に残りたかったが、日本になじめずにいた姉がコロンビアに戻ることを望み、家族で帰国した。

 帰国後も日本で車の仕事をしたいという思いを断ち切れず、働いて金をためて約1年後、16歳のころに再来日した。

 ガソリンスタンドや車の修理工場など何十社も応募した。日常会話はできても、「外国人はだめ」「漢字が書けないとだめ」と取り合ってもらえない。もう一度勉強したいと定時制高校に入学の相談をしたが、「日本語のサポートをできる人がいない」と断られた。日本語学校は費用が高く、とても通えなかった。

 食品や車の製造工場など非正規の仕事を転々とした。身分は不安定だった。仕事中にけがをしたときは会社が労災を認めず、自ら労働基準監督署に訴えた。

 仕事がなく橋の下で2週間、野宿したこともある。食べ物を買うこともできず、最後に残った70円で福島の実家に戻っていた義父に電話した。迎えに来てくれたが、義父の家族が一緒に住むことを嫌がった。昼間はハローワークに通い、夜は屋外に止めた義父の車で寝起きした。仕事がなく、公園のベンチで空を眺める日が続いた。義父も失業中で生活に困っていた。「これ以上迷惑をかけられない」。福島から離れることを伝えると義父は泣きながら、3000円を握らせてくれた。

 2日後、徒歩でたどり着いた茨城県で、偶然見つけた人材派遣会社に飛び込み、頭を下げた。「金もなく、行くところがありません。今日からでも働けます」。翌日から、ピザ工場で派遣社員と…

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