ハンセン病を理由に隔離施設の特別法廷でかつて開かれた刑事裁判について、熊本地裁が憲法違反と認めた。不合理な差別で、被告の人格権を侵害していると判断した。
最高裁は2016年にまとめた報告書で差別的な取り扱いだったと認めて謝罪したものの、違憲とまではしなかった。熊本地裁判決は踏み込んだ判断であり、評価できる。
問題となったのは、1952年に熊本県で起きた「菊池事件」の裁判である。被告の男性はハンセン病療養所や刑事施設の特別法廷で裁判を受け、殺人罪などで死刑となった。
特別法廷は、被告の出廷が不可能な場合などに裁判所以外で行う裁判だ。判決は菊池事件で設置した合理性を認めず、裁判官や検察官がゴム手袋をはめ、箸で証拠物を扱ったことにも言及し、差別だと明言した。
療養所の特別法廷は一般傍聴ができないため、憲法が定める裁判の公開原則に反する疑いも指摘した。
ハンセン病を理由とした特別法廷は、48年から72年までに95件開かれた。最高裁は必要性を厳密に検討すべきだが、機械的に許可していた。
最高裁の報告書は、国の隔離政策を違憲とした01年の熊本地裁判決を踏まえ、60年以降の特別法廷は違法だったと記した。一方、今回の判決は、それ以前の裁判について違憲性を認めており、意義は大きい。
今回の裁判は、菊池事件の再審をしないと特別法廷で広まった差別被害が解消されないとして、元患者6人が起こした民事訴訟だ。
判決は、裁判手続きが違憲だとしても、直ちに事実認定に影響を及ぼすとはいえないと指摘して、再審の理由はないと結論づけた。
しかし、裁判のあり方が憲法に違反している以上、その結論に誤りがないとは言えないはずである。確定裁判の見直しに消極的な司法の姿勢には疑問が残る。
昨年、ハンセン病の元患者家族に対する差別について、国に賠償を命じる判決が確定し、補償法が成立した。そして、今回の判決で特別法廷の違憲性が初めて認められた。
最高裁の報告書公表後も、ハンセン病差別の理不尽さが次々と浮き彫りにされている。最高裁はこうした流れを重く受け止め、改めて差別の歴史を直視する必要がある。