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新型肺炎の首相会見 もっと不安減らす説明を

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 国民に呼びかけた理解と協力がこれで得られるだろうか。

 新型コロナウイルスへの対応をめぐり、安倍晋三首相が記者会見した。首相がこの問題で、国民に直接説明する場を設けたのは初めてだ。

 遅きに失した会見である。政府の水際対策は事実上失敗している。クルーズ船乗客や中国からの帰国者を除き、国内での感染は200人を超した。感染が深刻化した北海道は、週末の外出自粛要請を出した。

 国民の不安は日々増している。それだけに、首相がこれまでの対応をどう総括し、感染防止へどんな具体策を説明するかが注目された。

 だが、会見はこうした要請に応えたものではなかった。

 首相が唐突に出した全国の小中高校への休校要請は、教育現場や保護者に混乱を起こしている。首相は「断腸の思い」の政治判断と訴え、保護者が仕事を休んで減収となる場合の助成制度を創設すると述べた。

 しかし、政府が基本方針を決めた2日後にいきなり示した唐突さについては「判断に時間を割くいとまがなかった」などと述べるにとどめた。全国一斉が必要と判断した根拠も踏み込んで語らなかった。

 国民が不信感を強めるウイルス検査数の少なさについては検査能力の拡大や、医療保険適用による民間検査の実施を進めると強調した。だが、必要な人が検査を受けられているかのチェックが十分に機能しないと、現状は容易に改善されまい。これまでなぜ、検査が進まなかったのかをもっと説明すべきだ。

 感染者を受け入れる病床は現在約2000床あるが、緊急時に5000床超を確保するという。必要な措置だが、そもそも基本方針に明記すべき内容ではないか。

 首相はまた、今後の感染拡大に備えた立法措置を講じると表明した。早急な法整備には国会で野党の協力を得ていくことが必須だけに、首相自身が環境整備に動く必要がある。

 ようやく実施された会見だが、感染を広げてしまったことへの率直な総括は聞かれなかった。質問時間を制限した対応も理解に苦しむ。

 首相は感染終息に向け「深く深く協力を願う」と国民に頭を下げた。真剣にそう願うのであれば、疑問にもっと正面から答えるべきだ。

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