新型肺炎の感染拡大が企業経営に深刻な影響を及ぼしている。安倍晋三首相は今年度の予備費約2700億円を活用した追加対策を策定すると表明した。先に決めた資金繰り支援などに続くものだ。
中国をはじめとした訪日客の激減や、中国製部品の輸入停滞に伴う国内生産の休止、イベント自粛などで、多くの企業が苦境にさらされている。愛知県の旅館や北海道のコロッケ製造業者は経営破綻した。
今後も経営に行き詰まる中小・零細事業者が出てくる懸念があり、政府は支援に万全を期す必要がある。
首相によるスポーツ大会や文化イベントの自粛要請を受けて、各地ではコンサートや祭りなどの中止・延期が相次ぐ。東京ディズニーランドや大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンも今月中旬まで休業する。
今は感染拡大の防止が最優先だ。ただ、自粛の影響はテーマパークやイベント業者にとどまらず、宿泊やバス・タクシー、飲食店、土産物店など幅広い業種に及んでいる。
新型肺炎の震源地、中国では生産活動の停滞が続き、部品の調達が困難になった日産自動車などは国内工場の操業停止を余儀なくされている。その影響が下請け企業の経営に打撃を与えることが懸念される。
首相は追加対策で、従業員の解雇を防ぐ「雇用調整助成金」の特例支給の拡充をあげた。打撃を受けた全業種を支給の対象にするという。
だが、この措置だけでは、非正規で働く人の支援に不十分との指摘がある。収入が途絶えて生活資金に困ったり、仕事を失ったりする人を出さないようにすることが重要だ。
東日本大震災時にも被災地への配慮や首都圏の電力不足を背景にイベントの自粛が相次いだ。被災地にある工場からの部品供給がストップして、国内生産も混乱した。
今回の新型肺炎は終息が全く見えないだけに、専門家は「経済的な影響が震災時より大きくなる可能性がある」と見ている。事業者からは「どう経営していけばいいか分からない」との不安の声も出ている。
追加支援は不可欠だが、規模を膨らませるだけでは解決策にならない。政府は事業者の実態を把握した上で、自治体や経済団体とも連携し、きめ細かな手立てを講じるべきだ。