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ベルリン映画祭便り

2020年振り返り 金熊賞「そこに悪はない」などメッセージ性の強い作品が目立つ

授賞式を前に、レッドカーペットに集まった地元の映画ファンたち=ドイツ・ベルリンで2020年2月29日、井上知大撮影

 第70回ベルリン国際映画祭が現地時間1日、幕を閉じました。29日に発表された映画祭の顔であるコンペティション部門の受賞作品と記者会見の様子を中心に報告したいと思います。今回のベルリンは、作品選定責任者であるディレクターが、2002年から務めていたディーター・コスリックから、カルロ・シャトリアンに代わって最初の回。近年は一部で「地味だ」との批判が続いていた中、カンヌ国際映画祭の常連監督を多く招いたり、新たに「エンカウンター部門」を創設したりと、てこ入れを図りました。それだけに、開催前や序盤には代名詞の「社会派」色が薄くなるのではとの見方も出ていましたが、受賞結果を見ると、メッセージ性の強い作品が目立ちました。

 コンペ部門に出品されたのは欧米を中心にアジアや南米など各国から18作品。最高賞の金熊賞に輝いたのは、イランの死刑制度を題材にした「そこに悪はない」(英題:There Is No Evil)。モハマド・ラスロフ監督は現在、イラン政府に行動を制限されているため、授賞式を欠席し、代わりに娘で映画にも出演したバラン・ラスロフが出席しました。

 作品は、死刑執行に関わる人々を描いた四つの物語で構成されるオムニバス。一つ目は、妻や子供を持った中年男性の日常が描かれて始まります。いつものように仕事場へ向かい、途中までは一見警備員か何かの仕事かと思えるのですが、部屋にあるランプの合図で彼がボタンを押すと、実はそれが絞首刑の床を外すものだったことが分かり、観客の緊張感を一気に高めます。彼の所作は実務的でためらいを感じさせない。彼はただ職務をこなしているだけで「そこに悪(意)はない」のです。

 「これはただならぬ映画である」と誰もが察知したところで、次のストーリーへ。兵役中と見られる若い男性は、どうやら死刑の執行に立ち会う任務を受け入れられず、取り乱している様子。なんと彼は大胆な方法で脱走してしまうのです。三つ目と四つ目は、死刑執行に関わった人と、死刑執行に関わらず逃げた人の「その後」がそれぞれ描かれています。強い主張がある一方で全てのエピソードの描き方が実に鮮やか。最高賞に異論はありません。

 「そこに悪はない」は、四つのエピソードそれぞれに、山河や砂漠から近代的な市街地までさまざまな表情を見せるイランの国土が映し出されています。強権的な自国の政府に抵抗し、創作を続けるラスロフ監督の本当の意味の愛国心を感じました。

 ラスロフ監督は、前作が2017年のカンヌ国際映画祭「ある視点部門」でグランプリに輝いたものの、かねて作品が「反政府的だ」として目を付けられたことなどから、帰国した際に政府にパスポートを押収されています。

 監督不在となった記者会見でしたが、大いに盛り上がりました。会場から「監督からの言葉が聞きたい」と要請される形でプロデューサーがスマートフォンで監督に電話をかけ、テレビ電話で会場と監督がつながりました。

 監督は「人々はNOと言う力が必要です」と訴えました。「映画の一つ目のエピソードで示したような、自分の意見を挟まずに(権力や命令に)従う人もいます。でも、自分の行為について注意深く考え、責任を持つということが大事。政府が強い力を持っている時だからこそ、それぞれが自分に責任を持って行動すべきです」と力強く語ると、会見場は大きな拍手に包まれました。

 ベルリン映画祭では、15年の第65回で同じくイランの名匠ジャファル・パナヒ監督の「人生タクシー」が金熊賞に輝いています。パナヒ監督もまた、監督業の禁止や出国禁止を政府に言い渡されている中、精力的に活動を続けており、…

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井上知大

2013年入社。静岡支局を経て18年から学芸部。テレビ、ラジオなど放送分野に続き、19年からは映画を担当している。

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