首相と閣僚の記者会見は“出来レース”か 政治部記者が明かすその実態

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記者会見で新型コロナウイルス対策として全国の小学校、中学校、高校、特別支援学校に対する臨時休校の要請などについて説明する安倍晋三首相=首相官邸で2020年2月29日午後6時11分、川田雅浩撮影
記者会見で新型コロナウイルス対策として全国の小学校、中学校、高校、特別支援学校に対する臨時休校の要請などについて説明する安倍晋三首相=首相官邸で2020年2月29日午後6時11分、川田雅浩撮影

 安倍晋三首相は2日の参院予算委員会で、首相の記者会見の質疑時間冒頭に出席記者を代表して質問する内閣記者会の幹事社から「質問の通告をあらかじめいただいている」と明らかにした。予算委で質問した立憲民主党の蓮舫氏は「何も響かない会見。答弁原稿を読んでおられるように見えた」と批判した。果たして首相や閣僚の記者会見は“出来レース”なのか。

 まず断っておくが、拙稿は過去3年間、外務省、防衛省、そして首相官邸で記者会見に定例的に出席した個人的経験を踏まえたものだ。会見にどう臨むかは個々の記者のスタイルがあり、「こういうものだ」と一般化するのは難しいことはご承知おきいただきたい。

 現在の内閣では、全体を代表して官房長官が平日の午前と午後に原則各1回の会見を実施するほか、火曜日と金曜日の定例閣議後に各閣僚の会見も行われる。筆者は過去3年間、小野寺五典防衛相(当時)、河野太郎外相(当時)、菅義偉官房長官の定例会見に参加してきた。

 その中で最も質疑が活発だと感じたのは、防衛相の会見だった。防衛省の記者会が主催し、基本的には質問が尽きるまで会見は続く。小野寺氏は防衛政策に精通し、2度目の防衛相だったこともあり、外交・安全保障の多岐にわたる質問への受け答えはたくみだった。北朝鮮による核実験やミサイル発射を受けた臨時会見も多かったが、事前の通告がない質問にもよどみなく答え、イラク日報問題などで細部にわたる質問は「詳しくは事務方へ」とうまくかわした。防衛省幹部らも「安定感抜群」と小野寺氏に頼っていた。

 “アドリブ”がきくのは河野氏だ。閣僚は会見前に官僚を集めて勉強会を開き、想定される質問に関する知識を頭に入れるが、「河野氏はのみ込みが早い」と外務官僚の評価は高かった。ただし、河野氏の本領が発揮されるのは勉強会ではなく本番だ。勉強会を経て用意した答弁原稿を見ながら話す閣僚が多い中、河野氏は原稿を見ずに答弁をこなす。日露交渉に関する質疑で質問に答えずに「次の質問どうぞ」と4回繰り返すなど批判されたこともあったが、それも含めて河野氏の“らしさ”だと感じる。ただし、会見は外務省の主催だったため、司会は外務省職員で追加の質問もしにくい環境だった。

 河野氏と対照的に、昨年10月から筆者が担当している菅氏の答弁は非常に慎重だ。他の閣僚と異なり、官房長官は政府全般のスポークスマンの役割を担っており、国内だけでなく外国からも発言内容は注視されている。会見では菅氏の所管外のテーマも多く聞かれるため、応答要領の範囲を超える菅氏の「本音」を聞き出すのは容易ではない。

 一方、3人の会見に共通していたのが、事前の「問取り」だ。報道室などの担当者が会見前になると「今日はどんな話題がありますか」と声をかけてくる。国会や地方議会で、質問に立つ議員に役所側が事前に質問内容を探りに行くのと似たようなことだ。

 同じ記者会見でも、例えば不祥事や事件などテーマが決まっている場合は「問取り」が行われることはほとんどない。会見する側もテーマが絞られている分、事前に十分準備ができる。しかし、閣僚の会見となると、どのテーマが飛び出すかは分からず、役所側は神経を使うのだろう。

 ただし、「問取り」にどこまで協力するかは、記者の裁量だ。筆者の場合、防衛省や外務省ではせいぜいテーマを伝える程度で、事前に通告しないことも多かった。詳細に通告すれば、相手は事前に用意した答弁を読み上げるだけになる恐れが大きく、会見で問う意味が薄れる。小野寺氏や河野氏が安全保障や外交に精通した“プロ”で、質問に柔軟に対応してくれる閣僚だったこともある。

 だが、官房長官会見に関しては、以前より事前通告することが増えた。特に、外交案件に関して日本政府の見解を問う場合や事実関係を正確に知りたい場合、意味のある答弁を得るために通告することもある。

 例えば、「シリア北西部でのトルコ軍とシリア軍の衝突について、日本政府としてどういった懸念を抱き、日本が関わる人道支援にどういった影響があると考えていますか」と突然聞いても、「外務省にお尋ねください」とかわされるだけだろう。外相の会見がない日に政府見解を問う機会は、官房長官会見しかない。そうすると、事前に通告した方が賢明だ。

 ただし、「事前通告=出来レース」というのは早合点だ。通告した質問は質疑の基礎となるに過…

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