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ベルリン映画祭便り

諏訪敦彦監督インタビュー・後編 セリフなし、即興で撮影 「旅行するように映画を作りたい」

ベルリン国際映画祭で「風の電話」が上映され、舞台あいさつをする諏訪敦彦監督=ベルリンで2020年2月23日午後10時39分、井上知大撮影

 第70回ベルリン国際映画祭で、若い世代に向けた「ジェネレーション14プラス」部門で、特別表彰(スペシャルメンション)を受けた映画「風の電話」の諏訪敦彦監督インタビューの後編。諏訪監督はセリフのない構成台本を用いた即興演出をする監督として知られており、今作もその方法で撮影しました。が、実は撮影前にセリフまで書かれた脚本が完成していたそうです。独特な撮影の過程や、諏訪監督が物語に込めた思いなどを聞きました。【井上知大】

 映画は、東日本大震災で亡くなった人たちに思いを伝える場所として、岩手県大槌町に設置された実在の電話ボックス「風の電話」がモチーフ。同町出身で小学生の時に震災で家族を亡くした高校生の少女、ハル(モトーラ世理奈)が、広島から大槌町を目指して旅をする中で、生きる力を取り戻していく物語。ベルリンでは2月23日夜に公式上映され、満員の客席から盛大な拍手が送られていました。

 ――ハルという主人公にモトーラ世理奈さんを起用した決め手は。

 ◆ベルリンでの上映後、モトーラを見て、みんなはっとしていました。それと同じです。「あれ、この子なんだろう」ってすごく興味を持たせますし、ずっと見ていたくなる気持ちを引き起こす存在です。この子を撮っていれば、映画はできるのではないかと直感的に感じました。僕の映画は常にキャスティングから始まっているところがあります。できあがった映画はその人でなければあり得ない。その人以外考えられないとなっていく。モトーラでなければこの映画はこうはならなかった。

 この映画に出てくださった西田敏行さんが「モトーラさんは、こんなに若いのになぜこんな『受け』の芝居ができるのでしょうか」と言っていました。「受け」の芝居って僕たちじゃ分からない、役者同士でないと分からないもの。「受け」の芝居は、やっている側の演技を受け止めてくれる感覚。西田さんにとって、自分が芝居しているのをモトーラが受け止めてくれる感覚を持ったのだと思います。黙っているだけでも相手の演技を引き出す、相手に演技をさせてしまうということ。その演技を受け止めることが彼女は自然とできるのだと思う。西田さんはとても驚いていました。三浦友和さんは「久しぶりに映画女優を見た」と言っていました。映っているだけで目を引きつける人はなかなかいないですね。

 ――ハルという少女に広島から岩手にヒッチハイクで旅をさせたのはなぜでしょうか。前編のインタビューでは、ロバート・クレイマー監督の「ルート1/USA」という映画のことも頭の中にあったとおっしゃっていましたが。

 ◆今まで僕はどちらかというと1カ所にとどまって映画を作っていました。部屋の中とか家とか。時間というのはずっとその場所で流れているもの。でも旅というのは、その時間を横断していく。いろんな人に出会っては別れて、出会っては別れてを繰り返します。その人にとっての人生の時間が縦軸に流れているわけですが、旅はそれをすうっと通過する。それによって断面が見えてくる。日本の地層のようなものが切り取られて見える。広島では広島の時間があり、映画では原爆の話、豪雨の話が出てきたように、その場所にいるときは縦の時間の流れの中で(さまざまなことを)感じますが、移動するとそれらが切り口として見えてきます。こんな日本があると。ここではクルドの難民の方がいるとか。

 僕はロードムービーってやったことがなかったのですが、面白かったですね。出会いと別れを繰り返すことで、ハルは最終的に自分の家族とも、きちんとお別れができるようになる。彼女の家族は津波で流されて見つかっていないので、ちゃんと別れられていなかった。旅を通して、いろんな人に優しくしてもらったりしながらも、それぞれの人生があるから、すぐに別れていく。その中で自分が再生していく。そして「風の電話」の電話ボックスで自分の家族に「今度会ったときはおばあちゃんになっているかもね」と言えるようになっている。それは死を受け入れたということです。そういう旅に結果的になった。

 でもそれは僕自身、やってみないと分からなかった。実際やってみると、いろんな役者さんがこの映画でも入れ代わり立ち代わり出てくれて、一緒に仕事しているときは楽しいけれど、すぐに「お疲れ様でした」とお別れがきて、去っていく。それが寂しくて、疑似旅行みたいなことをモトーラと経験しました。旅はそういうところがあるのではないでしょうか。昔から、熊野詣でというのは、病気平癒の目的で出かける人も多かったようです。治療です、旅は。体が病気の人も、心が病気の人もいると思いますが、やはり旅を通して人間は再生していく。自分の日常の縦の時間軸から外れて、横の時間を生きていくときに得られるのではないかなという気がします。

 ――その最後の場面は、セリフが用意されていたのではないのですよね。

 ◆もちろんセリフはないです。本人も何を言うか、分かっていなかったと思います。岩手県大槌町にある「風の電話」というのは、そういうものだと思います。つまり、あそこで受話器を取る人は、ある意味みんな演技をするわけです。電話をかけて「もしもし、お父さん、元気」なんて言ったとして、それは演技です。電話ごっこ。だって話し相手はいないのだから。でも演じるということの中で新たな感情が芽生えていく、それと同じことがハルにも起きたのだと思います。それはあらかじめ書いてあるセリフだったら、たぶん違う映画だったと思います。再現しただけになるので。でも、これは本当に彼女に起きたことなんです。

 ――震災をテーマに用いることは難しさもあったと思います。

 ◆震災をテーマにしたという意識では映画を撮っていなかったです。それは震災だけでなく、人間に起きる悲劇。どこにでも、誰にでも起きることです。広島だけに起きたことでもないし、福島だけに起きたことでもないし、岩手だけに起きたことでもないし、日本だけでもない。ハルみたいな年ごろで考えると、内戦で家族を失った人はいっぱいいるわけです。日本にだって自分がなにびと…

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井上知大

2013年入社。静岡支局を経て18年から学芸部。テレビ、ラジオなど放送分野に続き、19年からは映画を担当している。

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