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中島京子・評 『黒川能 1964年、黒川村の記憶』=船曳由美・著

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 (集英社・3960円)

五輪の陰もう一つの奇跡

 黒川能とは、山形県庄内地方、黒川村(現鶴岡市)に伝わる伝統芸能・神事で、500年余の歴史がある。旧暦の正月(2月1日と2日)に行われる王祇祭(おうぎさい)では、春日神社のご神体「王祇様」をそれぞれ上座、下座と呼ばれる2軒の「当屋(とうや)」に迎え、夜を徹して能と狂言が演じられる。能楽五流(観世、宝生、金春、金剛、喜多)とは異なり、役者も囃子(はやし)方も玄人の能楽師ではなく、春日神社の氏子が務めるのが特徴である。

 著者は、この神事能に初めて写真家を伴い、詳細にその記録を残した、雑誌『太陽』の編集者だった。1964年、日本中が「オリンピック」で舞い上がっていたころ、もっと違う、土地に根づいた「祭典」を見たいと願っていた著者は、黒川能を詠(うた)った真壁仁の一篇の詩に導かれて村を訪ねる。

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