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ベルリン映画祭便り

2020年総括 コンペ部門出品ゼロの日本映画に足りないものは何か

映画「平静」 (C)HUANXI MEDIA GROUP

 2020年2月20日~3月1日に開催された第70回ベルリン国際映画祭。本欄では、現地からの会見リポートのほか、受賞作品紹介や監督インタビューなどを掲載してきましたが、今回で第70回の報告は終わりです。今年は最高賞「金熊賞」を目指すコンペティション部門に日本映画の出品はありませんでしたが、海外の映画も含め「日本を映し出した」作品の受賞が相次ぎました。そうした日本の関連作を中心に報告します。

 若者向け映画を対象とした「ジェネレーション14プラス部門」で「風の電話」(諏訪敦彦監督)が特別表彰(スペシャルメンション)を受けたのを筆頭に、気鋭の監督作品を紹介する「フォーラム部門」では、想田和弘監督の「精神0」がキリスト教関係者が精神性の高い作品を選ぶエキュメニカル賞を受賞。さらに同部門で日本の市山尚三プロデューサーと中国のジャ・ジャンクー監督が製作を手がけた中国映画「平静」(ソン・ファン監督)が国際アートシアター連盟(CICAE)賞を受けました。同作には、女優の渡辺真起子さんが出演しており、中国や香港の他に、日本の東京と新潟が物語の舞台となっています。詳しい内容については、ベルリン映画祭便りの第3日で触れました。

 エキュメニカル賞の「精神0」は、岡山市の精神科診療所を舞台にしたドキュメンタリー映画「精神」(08年)の続編に当たります。82歳になった同診療所の山本昌知医師が引退を決めて以降の様子を記録しました。

 想田監督は仕事で授賞式前にドイツを出国していましたが、「患者との共生をテーマに生きてきた山本先生と妻の芳子さんに対して送られた賞だと思っている」とのコメントを発表。代わりに授賞式に出席した想田監督の妻、柏木規与子プロデューサーは報道陣の取材に「ベルリン映画祭には今回で4度目の出品。初めて賞を頂いて感無量です」と話しました。

 今回から新設された「エンカウンターズ部門」では、京都府内の農村で14カ月をかけて撮影された約8時間の映画「仕事と日(塩尻たよこと塩谷の谷間で)」(アンダース・エドストローム、C・W・ウィンター両監督)が作品賞に選ばれました。副題にもなっている「塩尻たよこさん」は実在する住民。彼女の日記がナレーションとして差し込まれながら、住民のたわいもない会話や生活の様子といった日常風景が延々と続き、後半では彼女と夫のエピソードが物語の核となっています。俳優の加瀬亮さんのほか、ごく一部で本木雅弘さんが出演していますが、ほぼ素人のキャストによるドキュメンタリー風ドラマです。

 実は、市山プロデューサーはこのエンカウンターズ部門の審査員でもあります。授賞式では「この作品は日本の村の人々の日常生活を素晴らしい撮影で描き、あたかも私たちが彼らと暮らしているような、忘れがたい映画的体験を与えてくれました。それはまさに“時間の贈り物”でした」と英語でスピーチしていました。

 一方、ウィンター監督は受賞後の記者会見で、超長尺の映画について「観客が8時間(の作品)についていけるよう(編集で)まとめることを心がけた」とし、エドストローム監督は「上映で最後まで残ってくれた客がいて、幸せだった。もちろん途中で出て行く人もいたけれど」と冗談交じりに語りました。

 今回のベルリン国際映画祭では、第70回の開催を記念して世界の名監督を招くトークイベントがいくつも企画されました。2月27日(日本時間28日)には、日本の是枝裕和監督と台湾出身のアン・リー監督の対談があり、500人以上のファンが詰めかけました。また対談の前後には、是枝監督の選定でリー監督の「ブロークバック・マウンテン」と、リー監督の選定で是枝監督の「ワンダフルライフ」が上映されました。

 リー監督は、これまでにベルリン、ベネチアの両国際映画祭でそれぞれ2度ずつ最高賞(金熊賞、金獅子賞)を獲得しています。2月の米アカデミー賞で作品賞や監督賞など4冠を獲得した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)が大きな話題となりましたが、リー監督はそれまでアジア人で唯一の監督賞受賞者(「ブロークバック・マウンテン」、「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」で2度受賞)でした。

 この日の対談は、リー監督のオファーで実現したもの。是枝監督は「実は、00年ごろにリー監督によって『ワンダフルライフ』がリメークされる話があったが、実現せず申し訳なく思っている。今回、ここに来られて少しだけ借りを返せたかな」と会場の笑いを誘っていました。また、リー監督が本格的にハリウッド進出を果たした「いつか晴れた日に」を見た際に「アジア出身の監督が米国に渡って米国人を撮り、文化や言語の問題を超えていけるんだと感じた。可能性を切り開く先輩として尊敬している」と目を輝かせながら語っていたのが印象的でした。

 一方、リー監督は、死後の人間の様子を描いた「ワンダフルライフ」について「ドキュメンタリーのような雰囲気があった。悲しくて美しい物語。どのようにしてあのアイデアが浮かんだのか」と称賛していました。

 イベント終了後、是枝監…

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井上知大

2013年入社。静岡支局を経て18年から学芸部。テレビ、ラジオなど放送分野に続き、19年からは映画を担当している。

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