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毎日新聞

名古屋ウィメンズマラソンを女子単独レースの日本新記録となる2時間20分29秒で制し、東京オリンピック代表に決まった一山麻緒=名古屋市東区のナゴヤドームで2020年3月8日、兵藤公治撮影

Field of View

女子マラソン・一山の価値を際立たせる「翌日わかった日本新」

 名古屋ウィメンズマラソン翌日の3月9日、日本陸上競技連盟から一通の発表文が送られてきた。名古屋で優勝し東京オリンピック代表に決まった一山麻緒(ワコール)の2時間20分29秒は、実は日本新記録でした、というものだった。

名古屋ウィメンズマラソンで優勝のフィニッシュテープを切る一山麻緒=名古屋市東区のナゴヤドームで2020年3月8日、兵藤公治撮影

 女子マラソンの日本記録は、野口みずきが2005年のベルリン・マラソンで出した2時間19分12秒。今回の一山の記録は、私も含めて報道各社が「日本歴代4位」「国内マラソンでの日本最高」などと書いた。なのに日本新記録とは――?

女子単独レースで「野口超え」

 一山は、女子だけで行われたマラソンでは日本最速だったのだ。陸上関係者にもあまり認識されていないが、女子のロード種目の世界記録や日本記録には、男女混合レースと女子単独レースの2種類がある。日本歴代の上位に並ぶ野口、渋井陽子、高橋尚子の2時間19分台はいずれも男女混合のベルリンでの記録。一山は、野口が03年大阪国際女子マラソンで残した女子単独での日本記録(かつ国内日本最高)の2時間21分18秒を更新した。

 高橋が01年に女子で世界初の2時間20分突破となる2時間19分46秒で走った時は、映像を見て仰天した。35キロまで先導したペースメーカーも、高橋が他の選手と接触しないよう左右で防御していたランナーも、すべて男子選手だったからだ。高橋の前人未到の走りには心から感動したが、日本で見慣れた女子単独のレースとは全く違う光景に違和感も覚えた。04年の渋井、05年の野口も男子のペースメーカーが先導。ブリジット・コスゲイ(ケニア)が世界記録の2時間14分4秒を出した19年のシカゴ・マラソンも男女混合だった。

名古屋ウィメンズマラソンの30キロの給水所で、先頭集団から抜け出す一山麻緒(手前)=名古屋市西区で2020年3月8日午前10時50分、代表撮影

自らレース動かす 価値高い内容

 女子単独のマラソンには、対照的な難しさがある。男子に比べて選手層が薄いため、確実に先導できるペースメーカーを用意するのが難しい。代わりに近くを走る男子選手を目標にすることもできない。今回の名古屋は比較的順調なペースで進んだが、それでも25キロ以降は設定から遅れ、五輪を目指し記録を強く意識していた一山は自分でレースを動かさざるを得なかった。30キロ手前から一人で一気にペースを上げ、最後まで揺るがず駆け抜けた2時間20分台の価値は非常に高い。野口ら歴代上位の記録に匹敵すると言っていい。

 一山の走りの強烈なインパクトと、五輪代表に決まったことに気を取られたか、レース当日に日本新記録に気づいた人は誰もいなかったようだ。私もその一人。その場で気づいていれば、記事の中で一山のすごさをもっと表現できたのではないかと反省している。

 女子単独での世界記録は、女子が男子より35分先にスタートする方式で行われた17年のロンドン・マラソンでメアリー・ケイタニー(ケニア)が出した2時間17分1秒。一山とは3分28秒の差があるが、名古屋の雨や寒さ、まだマラソン経験4回の22歳という伸びしろを考えれば、実力的には数字より近いのではないか。今回の「おわび」も込めて、今後の一山の走りを注視していきたい。【石井朗生】

石井朗生

毎日新聞東京本社運動部編集委員。1967年生まれ、東京都出身。92年入社。陸上、アマ野球などを担当し、夏冬計6大会の五輪を取材。デスク業務を経て2018年秋に現場取材に復帰した。大学で陸上の十種競技に挑み、今も大会運営や審判に携わる。最近はアキレス腱(けん)断裂や腰椎(ようつい)すべり症など、ケガの経験が歴戦のトップ選手並みに。