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今週の本棚・この3冊

不確かな時代を生きる 向谷地生良・選

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向谷地生良(むかいやち・いくよし)

<1>シーシュポスの神話(アルベール・カミュ著、清水徹訳/新潮文庫/605円)

<2>オープンダイアローグとは何か(斎藤環著訳/医学書院/1980円)

<3>ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力(帚木〓生著/朝日選書/1430円)

 私が青森の片田舎に生まれた1955年は、朝鮮戦争の特需によって復興の足掛かりを得た高度成長の幕開けの年であった。高度経済成長の波が、国の隅々に及び、身の回りの風景が更新され、家に物―家電・自家用車・電話-がどんどん増えたが、その熱気は、私が18歳を迎えると同時に終焉(しゅうえん)を迎えた。大学で福祉を学び、生活費を得るために飛び込んだ特別養護老人ホームで夜間介護人の仕事に就き「寝たきり老人」と言われる人たちに出会い、高度成長神話に毒されていた自分を恥じた。そして、親しく交わったお年寄りが亡くなり、ストレッチャーで霊安室に運ぶ喪失体験を重ねながら出会った本が、アルベール・カミュの<1>だった。

 神の怒りをかったシーシュポスは、大岩を山の山頂に押し上げる罰を受ける。必死になって山頂に岩を押し上げ、これで苦役から解放されると思った瞬間、岩は反対方向に転げ落ちる。実は、シーシュポスの本当の罰とは、これを生涯続けるというものだった。カミュは、この物語を通じて現代人のかかえる不安と存在の危うさを描き出し、ホームでの私の日常と重なった。「世界が理性では割り切れず、しかも人間の奥底には明晰(めいせき…

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