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声をつないで

東大、女子は2割弱の「異常」 クオータ制が反対される理由とは 田嶋・上野両氏の対談後編

対談に臨む女性学研究者の田嶋陽子さん(左)と東京大名誉教授の上野千鶴子さん=東京都千代田区で2020年3月4日、尾籠章裕撮影

 英文学・女性学研究者の田嶋陽子さんと、社会学者の上野千鶴子さんが3月8日の国際女性デーに合わせて行った対談。後編では、日本社会が抱えている構造的な女性差別や、国会議員などの一定数を女性に割り当てる「クオータ制」の実現などに話題が及んだ。【江畑佳明、牧野宏美/統合デジタル取材センター】

田嶋氏「自分を解放すれば何でもできる」

 上野氏 このところはシャンソン歌手で、書家としても活動されているのよね。

 田嶋氏 書家じゃなくて「書アート」作家。先生の伝統的な書をまねるのではなくて、書と絵とを一緒にしたような「書アート」。今年で8年になるかな。個展も開いています。

 上野氏 楽しそうにやっていらっしゃるみたい。

 田嶋氏 楽しいけど、苦しくて、いつも死ぬ思いでやっているよ。

 上野氏 歌を歌って、アートして、すごく多才じゃないですか。私は自己紹介する時に、「歌も踊りもできない、お字書きしかできない上野です」と言っています。

 田嶋氏 女性一般で考えると、「小さく小さく女になあれ」って言われて育てられるから、自信を持てないまま「自分はこれしかできない」と思っている人が多い。でも本当は、自分を解放したら何でもできる。フェミニズムは、そういうところから考えていかないとね。

 「これしかできない」「あれしかできない」と思っているけど、チャンスがあってそれに乗れば、いろんな自分が出てくるんじゃないかな。そういう自分を発見するのがフェミニズムだと思っているんですよ。だから私もそうありたいなって。

 上野氏 なるほど。

 田嶋氏 最近は女性たちが地力をつけてきたと思うし、その意味で時代はよくなってきている。女性が自身の実力に見合った環境で活躍するケースも増えている。分かりやすい例でいうと、2019年上半期の直木賞候補は6人で、全員が女性だった。

 上野氏 確かに。最近の文壇は本当に女性が増えました。

 田嶋氏 それから、新聞とか雑誌とかで女性の署名記事をよく見かける。いろんな分野で女性の顔が見えるようになってきたよね。

 上野氏 やっとね。

上野氏「政治のやる気のなさが見え見え」

 田嶋氏 でも現状は、その力が十分発揮できている場所ばかりではない。だって女性の国会議員は衆院で10%程度、上場企業の役員では5%くらいでしょう。この少なさは政治の責任だよ。だって、女性が何とかしようと思っても、構造的に男女間の差別があるのは事実。政治が法律や制度を変えるべきなんです。多様な意見で社会や政治を動かすという意味で、最近の#MeToo運動や#KuToo運動の役割は重要だと思う。女性に力がついてきているのだから、そういう力を発揮させていかないともったいない。

 上野氏 私もそう思います。

 田嶋氏 日本では大卒の女性の学力は世界で10位以内に入るんだけれど、年収は男性の7割程度しかない。女性がきちんと働かなければ税収は増えないし、国内総生産(GDP)も上がらない。そんなの当たり前。なのに、男には「女は家庭に」という考えがまだあって、女も「男と同じようには稼げないから家庭に入って守ってもらおう」と考えるという悪循環になっている。日本は今、男だけで飛んでいる危ない「片翼飛行」だよね。経済協力開発機構(OECD)などから「女性がもっと活躍しないと日本の経済は失速する」と指摘されているのに。もうじきぐるぐる回って墜落する。

 上野氏 私も、このまま変わらないでいたら、日本という巨艦が沈没すると予言しています。18年5月に「政治分野における男女共同参画推進法」が国会で全会派満場一致で成立しましたね。政党などに対し、男女の候補者数をできる限り均等にするよう求める内容で、一定の評価はできるんだけど、罰則規定みたいな強制力が全然なくて。目標を達成しなかったら政党交付金を支出しないとか。

 田嶋氏 そう。罰則がないとだめ。

 上野氏 だから何一つ実効性がない。政治のやる気のなさが見え見え。去年は参院選があったけれど、当選した女性は28人で、これは前回16年の参院選と同じ数。つまり、法律の効果がまったくなかったということです。にもかかわらず、ニュースにして問題視するメディアはほとんどなかった。

なぜ日本にクオータ制が必要か

 田嶋氏 メディアがレイジー(怠惰)よね。ニュースのうちの3分の1は必ず女性差別の問題を扱うとかにしたほうがいい。

 上野氏 女性記者の数を全体の半分にまで増やさないといけない。「#MeToo運動」の時、本当にいやな思いをしたんです。取材がいっぱい来たのだけど、記者は決まってこう質問するの。「海外では#MeTooが広がったのに、どうして日本では広がらないんですか」って。

 田嶋氏 報道しないあんたたちが悪いんだよ。あはは。

 上野氏 そう!全国的に抗議集会とか、いろんな動きがあったのに、それを、取材しない、報道しないのは誰?って言いたくなる。ある全国紙の女性記者がこう言っていました。「#MeToo関連のイベントを取材したい」という企画書を出したら、おっさんのデスクに「報道する価値がない」と握りつぶされたって。それが現実。

 田嶋氏 あのね、イギリスの公共放送「BBC」が「50:50」運動をはじめたの。なんと、会長のトニー・ホール氏が後押ししているんだよ。司会者とかだけじゃなくて、制作現場も男女50:50にするって。すごく好評で、ヨーロッパとかに広がっているんだって。政治の話に戻るけれど、スウェーデンなど北欧諸国は、大臣の半分が女性になるまでになったでしょう。でも最初はひどかった。今の日本と同じ。クオータ制は強制力を持って女性を底上げする仕組み。まずは女性が奴隷的に扱われている構造自体に手をつけなくちゃならない。

 上野氏 でも日本の政治家は「クオータ制は日本の風土に合いません」って言う。

 田嶋氏 そう言うあんたたちが、その風土を作ってるんでしょう!

 上野氏 ねえ。「風土に合わない」という言い方は、「説明できません」と同じ。で、男女平等を実現した先進国で、強制力のないクオータ制抜き…

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江畑佳明

大阪府寝屋川市生まれ。1999年入社。山形支局を振り出しに、千葉支局、大阪社会部、東京社会部、夕刊編集部、秋田支局次長を経て、2018年秋から統合デジタル取材センター。興味があるのは政治、憲法、平和、ジェンダー、芸能など。週末は長男の少年野球チームの練習を手伝う。

牧野宏美

2001年入社。広島支局、大阪社会部、東京社会部などを経て19年5月から統合デジタル取材センター。広島では平和報道、社会部では経済事件や裁判などを担当した。障害者や貧困の問題にも関心がある。温泉とミニシアター系の映画が好き。

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