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余録

満開の桜の木の下で「老婆」が酒を飲んでいる…

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 満開の桜の木の下で「老婆」が酒を飲んでいる。「木に花が、まるで嘲(あざ)笑うみたいに咲いて……」。花びらが舞う、一見うららかな情景とは裏腹に、傍らの大きな洋服ダンスから家族が出入りし、どこかいびつな会話が繰り広げられる▲1979(昭和54)年、16歳の少年が祖母を殺害し、自身も後を追った事件が社会を驚かせた。その翌年、別役実(べつやく・みのる)さんはまだ生々しさが残る事件をモチーフにした「木に花咲く」を青年座に書き下ろした▲日本の不条理劇を確立した劇作家は、小市民の視点から犯罪によって可視化された社会の病理をとらえた。より一層怖さをかき立てたのが乾いたユーモアだ。今月、144の戯曲を残して亡くなった▲最後の作品となったのは2年前の「ああ、それなのに、それなのに」。インタビューは病床で応じた。「近代は、うそは歴史に暴かれるものだったが、現代ではそういった暴露のシステムが死んでいる。恐ろしいことだと思う」。批評眼は健在だった▲影響を受けたのがベケットの「ゴドーを待ちながら」だという。2人の男が、救われると信じて何者か分からない「ゴドー」をひたすら待ち続ける。作者は第二次大戦中、対独レジスタンスに参加。不条理劇の傑作は、多くの理不尽な死や戦争の荒廃から生まれた▲今また新型コロナウイルスが日常を吹き飛ばす。日本では公演中止が相次ぎ、英米の劇場街も閉鎖された。それでも劇場という木は枯れず、演劇という花は再び咲く。そう信じて待つしかない。

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