メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

号外首相、緊急事態宣言へ 新型コロナ
にほんでいきる

日本語分からずギャングになったホドリゴ ラップとの出合いで更生、仲間のために起業

首に「0574familia」のタトゥーを彫ったホドリゴさん。解体業の仕事は「地道やけど、まともに稼がせてくれる」=岐阜県可児市で2019年12月27日、兵藤公治撮影

 「この辺りに有名なブラジル人がいる」。そう聞いたのは2018年6月、岐阜県可児市を訪れた時だった。そのブラジル人は男性で、中学時代には学校でボヤ騒ぎを起こし、卒業後は仲間を率いてけんかを繰り返す「日系ギャング」と恐れられた。現在は解体業を起こし、ラッパーとしても活動しているという。男性のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)には、サングラス姿でマイクを握る写真とともに、こんな自己紹介がつづられていた。「俺生まれブラジル、そだちは0574町」「ぜたい(絶対)あしたくる信じて生きとる」。つたない日本語を並べた男性の背景を探ろうと、足取りを追った。【奥山はるな】

 男性の名前はホドリゴさん(31)。ブラジル人仲間とラップユニット「0574familia」を作った。最初に訪れたのは、メンバーが経営するバー。青い照明の下に置かれた黒い革張りのソファに、両腕にタトゥーを入れたメンバーの男性が座った。トーマス(26)と名乗った。「0574は可児市や(隣接する)美濃加茂市の市外局番で、音楽や仕事のつながり。昔は少年院に行ってたやつもいるけど、今はみんな、ホドリゴの会社で働いている」

 トーマスさんはそう話し、スマートフォンの動画を見せた。「これがホドリゴ」。0574のロゴが入ったTシャツを着たメンバーの中心に、ひげを生やしたいかつい男性がいた。隣には「兄貴」と呼ばれる人物。「この人は日本人のラッパー。近くでたこ焼き屋をやってる」

 バーからたこ焼き屋に向かった。途中、梅雨の生暖かい空気が漂う路上に座り込み、一つのコンビニ弁当を分け合って食べるジャージー姿の少女らがいた。その脇でアフロヘアの少年が、地面に置いたスマートフォンから音楽を流し、ラップの練習をしていた。たこ焼き屋の店員だという。

 兄貴と慕われる日本人のラッパー、WA(ワ)MU(ム)さん(40)がいた。この地域にラップを広めた親友のKJI(ケージェーアイ)さん(40)が、19年1月に可児市内のホールでデビュー10周年イベント「岐阜0574音楽祭」を開く予定という。イベントには0574のメンバーも出演することになっていた。

 初めての取材から5カ月後の18年11月、WAMUさんがたこ焼き屋の他に経営するバーで、イベントの打ち合わせが開かれた。KJIさんら日本人のラッパー10人が集まり、1時間ほど遅れてホドリゴさんも到着した。ラップを始めたきっかけについて、こう話した。「自分腐ってたとき、KJIさんがいたから、その存在で立ち直れた。まじめにやっとる先輩たちがおって『これが日本人のやり方だ』と思った」。そして、これまでの日本の生活について、語り始めた。

 ブラジル・サンパウロで生まれた日系3世。祖父は第二次世界大戦前、東京からブラジルに移民して精米業を営んだ。仕事中のけがで失明した苦労人だったという。穏やかな祖父から「サムライ、カラテ、スモウ」といった言葉を教わり、日本への憧れを募らせた。7歳の時、離婚した母が日本への「デカセギ」を決め、ホドリゴさんも後を追って10歳で来日した。可児市に着いたのは寒い冬の日。初めて見た雪の白さを覚えている。

 母と姉夫婦家族の5人暮らしが始まった。母や姉は、食品工場などで朝から晩まで働いた。「残業、残業ばっかりで、さみしいばっかりだった」。通学先を、日本の小学校かブラジル人学校か決めかねているうちに月日が過ぎ、学校に行く機会を失った。「友達一人もおらんかった」。日中は1人で自宅で過ごし、電子レンジで温めたピザを食べた。

 12歳で日本の中学校に入学した。この学校には外国人労働者の子どもが多く、日本語の学習経験がないホドリゴさんのような生徒は「直(ちょく)輸入」と呼ばれた。日本語を覚えようと、同級生にかけられる言葉をひたすらノートにメモした。「くろい」「きたない」「くにかえれ」。しばらくしてノートの言葉の意味を知り、勉強する気もうせた。

 ブラジル出身の生徒でつるんで授業をサボる毎日。階段の踊り場でブレークダンスをして騒ぎ、校舎の屋上でボヤ騒ぎを起こし、民家のブロック塀を蹴り壊した。日本の言葉や文化を学ばないまま卒業。部品工場の働き口を見つけたが、2時間で窓から逃げ出した。

 当時、中学校の校長だった林伍彦(くみひこ)さん(74)は「思春期の子どもが言葉も分からずボーンと入り込んで学校生活を送るのは、苦しいことだったと思う」と振り返る。それでも、居場所がないホドリゴさんらは、卒業後も中学校に姿を見せた。ブラジル人の後輩に声をかけ、校舎の周辺にたむろして騒いだ。「うるさい」と注意し、正門前で取っ組み合いになったこともあった。

 ホドリゴさんらへの対応に苦慮しつつ、林さんは学校の体制に限界を感じていた。日本語指導は週3、4時間のみで、授業が分からない外国人の生徒は机に突っ伏した。「どうせ親と一緒に工場で働くんや」。けだるい雰囲気が漂い、中退者が続出した。

 教室の様子を見学し「このままではダメです」と訴えた人物がいた。当時、大阪大の大学院生だった小島祥美(よしみ)・愛知淑徳大准教授(46)。就学義務の対象外とされる外国人の子が、学校に行かないまま放置される「不就学」の実態を調べようと、03~05年にかけ、可児市や教育委員会と協力して戸別訪問調査をした。15歳以下なのに働く子、妊娠した子もいた。

 調査を受け、林さんは05年に校内の日本語教室を拡充。国語や数学、英語を重点的に教えると、高校に合格する外国人生徒も出てきた。英語の他、ブラジル人の母語であるポルトガル語を選択教科に加え、評価の対象とした。後輩の話を通じて学校の変化を感じ取ったホドリゴさんは、17歳のころ、思い切って林さんに切り出した。「先生、日本語教えてくれる?」。林さんは校内に迎え入れ、高校進学を勧めたが、その後、なぜか姿を見せなくなった。

 …

この記事は有料記事です。

残り1655文字(全文4077文字)

おすすめ記事
広告
毎日新聞のアカウント
ピックアップ
話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 佐々木国交政務官、感染学生「どこに入社するのかな」とツイート

  2. 岐阜市のナイトクラブ関連の感染者18人に 客の精神科医の0歳娘も

  3. 横浜の「コロナファイター」卵 研修医2人感染 3月下旬に連日同期会やカラオケ

  4. 時の在りか 国家でコロナに勝てるか=伊藤智永

  5. 新型コロナ 国内死者100人超え 感染者数は4560人に

編集部のオススメ記事

のマークについて

今週のおすすめ
毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです