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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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「鉄は国家なり」は…

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 「鉄は国家なり」は19世紀にドイツを武力で統一したビスマルクの演説に由来するという。大砲や鉄道に欠かせない鉄は国力の源泉だった。ドイツを範とした明治政府が今の北九州市に建設したのが官営八幡製鉄所だ▲流れをくむ八幡製鉄が富士製鉄と合併し新日本製鉄が発足したのは、ちょうど50年前の1970年3月。日本初の売上高1兆円企業が誕生し「世紀の合併」と騒がれた。高度成長をけん引する「鉄は国家」の時代だった▲世界遺産にもなった八幡製鉄所は来月、他の製鉄所と統合され名称が消える。新日鉄の後身の日本製鉄による合理化だ。広島県の呉製鉄所は異例の閉鎖、和歌山製鉄所はシンボルである高炉の休止が決まった。中国の攻勢にさらされ昔日の面影は薄れた▲今後の日本を支える産業は何か。政府はネットで集めた大量のデータを分析しビジネスなどに生かす人工知能(AI)を中核にしたいようだ。安倍晋三首相は「データは成長のエンジン」と強調する▲だが効率的なAIが発達すると、その分、職が失われる懸念がある。「鉄は国家」と呼ばれたのも、製鉄所が各地で多くの雇用を生み出し地域を支えたからだ。コロナ不況が深まる中、今回の合理化による打撃を心配する声は尽きない▲時代に応じた産業の変化が避けられないとすれば、痛みを和らげるのは政治の役割だろう。19世紀ドイツの急速な工業化に伴う貧困対策として、近代的な社会保障制度を世界で最初につくったのは意外にもビスマルクである。

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