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詩の橋を渡って

記憶の闇と光の彼方に=和合亮一(詩人)

3月

私の恋人は老いている

彼がいたので、私は

旧い恋人を川に流した。

 学生たちの姿で混み合うはずの朝の列車。並ばずに座る。マスクをかけている人々と一緒にうつろな眼(め)をしながら車窓を眺める。三月の福島の空と野辺の風景。東日本大震災の歳月を思い起こしてしまう。放射能の影のようなものにおびえて過ごした日々を。前々から準備していたイベントや講演会など全て中止となった。自分ですらこのような虚脱感に襲われている。世の中の動きは日増しに不透明。世界中が脱力と不安に覆われている。

 マスクがずれたのでかけ直して、マーサ・ナカムラの最新詩集『雨をよぶ灯台』(思潮社)を開いてみる。「私の恋人は老いている//彼がいたので、私は/旧(ふる)い恋人を川に流した。」。何やらぼんやりとして顔半分を隠しているのに突然に匕首(あいくち)が突き付けられたように鋭いフレーズがやって来た。電車が揺れた。「トンネルに入ると、黒幕が垂れた。/しばし、車内は静寂……/(みんな、わたしの思い出が見たくてう…

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