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社説

東京五輪1年延期 乗り越えるべき課題多い

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 東京オリンピック・パラリンピックは来年まで1年程度、延期されることが決まった。

 過去には1940年の東京五輪など、戦争のために大会が中止になったり、返上されたりした例がある。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が続く中、延期はそれに匹敵する史上初の事態だ。

 年内の延期は感染の終息に見通しが立たず、2年後なら代表選考が白紙に戻される。2年分の経費も大きい。そう考えれば、来年への延期はおおむね納得がいく結論といえる。

 ただし、1年程度でパンデミック(世界的大流行)が収まる確証はない。大会には200を超える国・地域が参加する。国際的な人の出入りを伴う以上、選手や観客の安全を保証できることが開催の大前提だ。

実力発揮できる環境を

 競技面では、1年の期間が空くことで、代表の再選考を行う競技も出てくるはずだ。

 選考のやり直しとなれば、代表に決まっていた選手はコンディションや精神面でも再び負担を強いられる。一方、チャンスが生まれる選手もいる。競技団体は、実力が発揮できる環境を整え、不公平感が生じない方法に知恵を絞ってほしい。

 組織委員会には、運営面で乗り越えるべき課題が山積している。競技施設の確保、宿泊・輸送の手配、ボランティアの募集、聖火リレーなど大半の作業がやり直しになる。

 これまでの準備で指摘された問題点を改善する契機にしたい。酷暑を避ける日程や競技時間はぜひとも再検討してほしい。水質汚染が問題となったお台場海浜公園のトライアスロン会場や、札幌へのコース移転が決まったマラソンと競歩も、課題を洗い出す必要がある。

 延期に伴う追加費用の負担問題も重要なテーマだ。大会予算として、組織委、東京都、政府を合わせて総額1兆3500億円が計上されている。追加費用は数千億円に及ぶとみられる。別に予備費が270億円あるが、それではとても賄えない。

 やみくもな経費膨張は許されない。削減の努力は必須だ。早期に追加コストを算定し、どこが負担するのかを決定すべきだ。

 組織委の財政に赤字が出た場合は都が肩代わりし、それでも不足する時は国が補塡(ほてん)することが決まっている。とはいっても、国民の税金だ。透明性の確保に加え、積極的な情報公開が求められる。

 関連行事や宿泊のキャンセルは多方面で悪影響を及ぼすだろう。感染拡大の影響で景気が後退する中、五輪の延期はそれに追い打ちをかける。政府は影響を受ける企業への支援も含め、国内経済への打撃を緩和させる救済策にも取り組まなければならない。

政権の「遺産」ではなく

 今回の決定過程では安倍晋三首相が前面に出た。中止になれば、経済などへのダメージは大きい。最悪の事態を避けるために、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長との直談判に動き、延期の流れを作った。

 開催目標を「来年夏まで」としたことについては、来年9月までの自民党総裁任期を意識したもの、との指摘がある。政権の総仕上げに五輪を利用する思惑があるのかもしれない。しかし、五輪は政権の「遺産」を残すために開催するのではない。

 予定通りの開催にこだわっていたIOCには、各国の選手やオリンピック委員会から批判の声が相次いだ。ビジネスの契約や損失ばかりに気を取られ、他のスポーツ大会との日程調整が進まなかった。

 感染拡大の現実を直視せず、通常開催を強調し続けたのは日本の関係者も同様だ。選手不在の「商業五輪」では原点を忘れている。

 五輪は、スポーツを通じて平和な社会づくりに貢献することを目指す。今回は戦争ではなく、世界的な感染症との闘いだが、人と人とを結びつける点で本質は変わらない。

 グローバル化に歩調を合わせて五輪は発展してきた。ウイルス感染が広がり、渡航制限や外出禁止で世界の人の流れは分断されている。だが、感染が収まれば、スポーツは世界の人々をつなぎ、活気づける役割を果たさなければならない。

 大会が中止にはならず、舞台が残ったことを前向きにとらえたい。世界の人々から祝福される祭典にするためにも、安心してスポーツを行い、観戦できる環境の整備に万全を期すべきだ。

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