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常夏通信

番外編 空襲被害者補償具体化へ熱気感じた総会 河村議連会長「今国会」制度化に意欲

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民間人空襲被害者の救済を目指す超党派の国会議員連盟の総会で話す元官房長官の河村建夫会長(中央)=東京都千代田区の衆院第2議員会館で2020年3月27日、後藤由耶撮影
民間人空襲被害者の救済を目指す超党派の国会議員連盟の総会で話す元官房長官の河村建夫会長(中央)=東京都千代田区の衆院第2議員会館で2020年3月27日、後藤由耶撮影

 毎週木曜にアップしている本連載、今回は特別編として日曜にアップします。3月27日に開かれた、民間人空襲被害者の救済を目指す超党派の国会議員連盟(空襲議連)の総会の様子は当日、ニュース(https://mainichi.jp/articles/20200327/k00/00m/040/225000c)としてアップしましたが、これまでにない濃い議論がなされたため詳細に伝えたいと思います。【栗原俊雄】

潮目が変わった?空襲議連の総会

 同議連は2011年に発足した。以来足かけ10年、常夏記者こと「8月ジャーナリズム」=戦争報道を一年中やっている私は、ずっと取材している。27日の総会は議論の内容や議員の熱気、法案成立までの具体的な筋道が確認された点で、「少し潮目が変わったな」と感じるものだった。同じように長く取材している、他社の記者も同じ意見だった。

 この日午前9時半、衆院第2議員会館で総会は始まった。今年初めての総会だ。コロナ禍の中、さして広くない部屋に大人数が集まる総会の開催は難しいという見方もあったが、事務局長の柿沢未途衆院議員(無所属)が奔走し、予定通り開かれた。冒頭、その柿沢議員があいさつした。「議員立法の要綱素案(法案骨子)ができあがっておりまして、どう扱うかを巡って、ここのところ2年ぐらい議論が停滞、足踏みをしています。そういう中で(戦後)75年を迎えていますので、何とか進めてまいりたい」と話した。

 続いて議連会長の会長で衆院議員の河村建夫元官房長官(自民)があいさつした。

 「この問題については、もう考え方は一つの大きな方向で集約されていると思います。すでに法律素案を作っていて、『これで十分か』と言われればいろんな課題もありますが、集約をしたもので、この辺りでさらに深掘りをしてぜひ実現を図りたいと思っています。75年が経過したということは、当時の皆さんがたいへん高齢でおられるということで、私どももこの問題の時間的な問題としても考えていかなければならない。また、すでに最高裁の判決でも『球は立法府にあります』と受けているので、我々の課題として解決しなければならないと認識しています。次に向かってどのような壁を突破するのか、皆さんと一緒に考えていきたいと思いお集まりいただきました」

所管するのはどの省庁?

 続いて平沢勝栄衆院議員(自民)が、参加している衆議院法制局の担当者に質問した。

 平沢議員の選挙区は葛飾区全域と江戸川区の一部。平沢議員は長い間、この議連の詳細な活動を知らなかった。空襲被害者らで作る「全国空襲被害者連絡協議会(全国空襲連)」のメンバーが国会議員たちを一人一人訪ね、協力を要請する中でごく最近、議連に参加した。

 「政府としては、どこが所管するのがいいのですか。総務省なのか、厚生労働省なのか、内閣府なのか」。補償なり、援護なりを実施するとなると、さまざまな省庁をまたぐことになる。一方、所管を決めないと国会のどの委員会で議論するのかも決められない。重要な点だ。

 法制局の担当者は「厚労省に親和性がある制度設計」と答えた。同省は元軍人・軍属やその遺族らへの援護事業を行ってきただけに、自然な判断だ。

 当の厚労省の担当者は、「戦傷病者戦没者遺族等援護法」(1952年制定)を挙げて、「今までの私どもの支援は国と雇用関係、またはこれに類する特別な関係にあった方々で負傷や病気や亡くなった方に対して、国家補償の精神に基づき補償する」と説明。民間人空襲被害者の救済については、「国家が強制的に戦地における戦闘行為や軍需工場に参加させた、という事象にない一般戦災者は対象にしないことから、私どもの所掌からははみ出ている。現状はそういうことだと思います」と応じた。

 要するに「厚労省の所管ではない」、という返事だ。

 出席した議員や遺族からため息がもれ、数秒、沈黙が続いた。議連では、所管官庁については議論を積み重ねてきた。法案が想定しているのは自治体を通じての特別給付金支給だ。となれば総務省も絡む。ただ全体として、厚労省が適当という結論に達している。それを、この段になって「うちでありません」と言われたとも取れる。

 議員の一人が「被爆者援護法」について挙げ、「これは雇用関係の有無にかかわらず、原爆の被害に対して国が援護を被害者に行っています。これは厚労省の所管では? 矛盾している」と指摘した。担当者は「原爆は特別な被害ということで……」と応じた。議員からは今度は笑い声も漏れた。

 「爆弾の種類が違うだけです」。私の隣にいた、全国空襲連の河合節子さん(81)がつぶやいた。

 続いて、衆議院法制局担当者は「戦後処理の立法については厚労省の言う通りで、国との特別な関係にあることを前提としたスキームで、原爆の被害は特殊性ということで一般の被爆者にも救済をしているということです」。

 厚労省の担当者が言ったのは、現行法下における補償、援護の枠組みでみれば妥当なことなのだ。

 私がもし厚労省の担当者だったら、心の中でこう言うだろう。「現在の法体系では、厚労省の所管でありません。そういう法体系を作ったのは立法府でしょ。あなたたちの先輩ですよ」

 ともあれ、そのスキームを変えるかどうかは、政治が判断すべきことだ。すなわち新たに作る救済法などで「所管は厚労省」と定めれば済む話だ。

 「今さら……」感もある議論ではあるが、常夏記者はこのあたりから「いつもと違うな」と思った。というのも、この議員と官僚のやりとりが、それまで何度も行われてきた議連総会では感じられなかった熱を帯びていたからだ。ともあれ、所管は厚労省という合意が議連で確認された。

政府と与党の「合意」を乗り越える論理

 さらに、立法の大きく高い壁になっている点について議論が進んだ。それは過去数回、戦後補償が行われるに当たって政府と与党がした「合意」である。たとえば05年、引き揚げ者やシベリア抑留者、恩給欠格者を援護する立法がなされた際には「戦後処理問題に関する措置はすべて確定・終了したものとする」という「合意」がなされている。

 これに対して、全国空襲連の運営委員長で要綱素案の作成にも関わった黒岩哲彦弁護士が発言。「この了解事項(合意)では空襲被害者については議論されていません。議論されていないものが終了とはならない、と考えています」。さらに10年、シベリア抑留被害者に特別給付金を支給する法律が成立するにあたり、やはり政府・与党間による「合意」の中で「シベリア抑留者については、長期間にわたった劣悪な環境の下で強制抑留され、多大な苦難の下、過酷な強制労働に従事した特別の事情に鑑み」という一節を挙げて「特別事情があれば救済される、ということが確認されています」などとした。

 また高齢化により救済の対象者が急激に減っていることを挙げ「一刻も早く救済立法を」と訴えた。

空襲被害者を代表し、河合節子さんが出席

 ここで、その救済法案の中身を確認しよう。肝は法施行時点の生存者で、空襲や艦砲射撃などにより、身体障害者福祉法の別表が定める身体障害者やケロイドになった人らに一律50万円を支給する、ということだ。さらに戦後75年、国が行おうとしなかった空襲被害の実態調査を定めたことも重要である。

 続いて空襲被害者を代表し、河合さんが話した。

 戦後75年の節目で開かれている通常国会のさなか、重要な総会だ。河合さん以外にも、出席したかった人はいる。ただ新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、多くの人が差し控えた。河合さんはそうした人たち、さらには亡くなった人たちの気持ちもくんで発言を始めた。

 「私自身は1945年3月10日に母親と幼い弟2人の合わせて3人の命を奪われ、父は大やけどを負って大変醜い容貌になりました。その時、私はもうすぐ6歳、入学直前の年齢でした。紙一重で孤児になっていたかもしれません。

 被害者の一人として、東京大空襲訴訟に参加した時に、私よりももっとひどい被害を受けた方がこんなに…

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